2長編になりそうなネタの冒頭を書いてみた【色々詰め】 (ページ8)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:16,140 hit

・ページ8

その影はあろうことか天竜人ではなく、先程まで虐げられていたドレイを遥か遠くに蹴り飛ばしたのだった。

今の状況で、ドレイを守るために立ち上がったヒーローが悪役である天竜人をぶっ飛ばすという展開ならわかる。

しかしぶっ飛ばされたのはドレイの方だ。意図がわからない。

民衆達がざわざわと騒ぐ中、ようやく砂煙が引いてゆき突如現れた人物の姿が明らかになる。

上下黒いスーツに身を纏い、黒髪を後ろで束ねた細身の女だった。端正な顔立ちはパッと見では男か女か分からない、怪しげな雰囲気も持っていた。

その人はスタスタと天竜人の方に歩いて行くと、スッとその前で片膝をついて言った。

『驚かせてしまって申し訳ありません。ローズワード聖、シャルリア宮』

「何だ。Aか。一体何があったんだえ」

一段と民衆がざわつく。

天竜人と普通に会話をする一般人がいるという事実。
しかも、名前を天竜人に覚えられているなんて。

『はい。あのドレイ。気絶しているふりをして何かを取り出そうとしていたので。シャルリア宮に何かあってはいけないと思い、ご退場頂きました』

「まぁ！？私があんなにお世話してあげたというのにまったく！恩知らずあます！」

『えぇ、全くその通りですシャルリア宮』

この私がシャルリア宮に代わり、きっちりと処分しておくのでどうぞご安心を。

そう言って笑う女の目は冷たかった。

そして嫌でも分かるその女の強さ。

誰だ、ヒーロー登場かといったやつは。

チート級の悪役じゃないか。

「A。お前をシャルリアのお付きのボディーガードにして正解だったえ。可愛い娘をどこぞの馬の骨もわからん男に任せるのは嫌だからな」

『そうですね。シャルリア宮は本当にとてもお美しい。女である私でも時々ドキリとさせられますよ』

「Aったら！正直すぎるあます！…でも悪い気はしないあます」

あの天竜人に気に入られている。

驚きと同時に民衆達は一斉にこう思った。

“お前なら天竜人のドレイになってる人を助けたりできるんじゃないのか”

「ふざけるな！！」

そんな中、一人の男が立ち上がった。
20代くらいの青年だ。

怒りの対象は天竜人に“A”と呼ばれていたその女。ギロリと睨みつける。

「俺の…俺の妻と1歳になった娘は、天竜人に捕まってドレイになった…！いつか絶対助けると誓って今まで過ごしてきた」

テメェにその気持ちがわかるか！？