〈2〉病んでる海賊達の短編集【ワンピース】 (ページ44)

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「行く必要はない」

＿＿＿ゴロン

鈍い音を立てて転がったソレを月明かりが映し出した。

『あっ！？』

男の首だった。

先程まで私と喋っていたあの革命軍の男。

「お前のターゲットが逃げていくところが見えたからな。ついでだ」

『……そう、ですか』

動揺するな、と。
頭では分かっていても無理だった。

声が震えてしまう。

ルッチが私の違和感に気づくのも必然だ。

「もう一度問おう＿＿＿何を考えていたんだ？」

『っ…』

殺される。

おそらくルッチは殺す前に、あの革命軍から私の話を聞いてるだろう。

私が正義に対して、世界政府に対して疑心を抱いてしまっていることに気づいてるはず。

それなら、いっそのこと。

『…ルッチは、正義って何か考えたことある？』

私の中にある疑問を
解消してから死にたい。

「そんなことを考える必要はない。俺たちは世界政府に命を捧げる、そのために訓練をしてきたのだから」

『でも！もし、無実の人を殺してたら』

「考える必要はないと言っているんだ」

スッと首に手がかけられる。

あぁ、殺される。
そう思って目を閉じた。

だけど、聞こえてきたのは意外な言葉。

「殺す、とでも思ったか？」

『…違うの？』

「俺がお前を殺すわけがないだろう」

この問答も何度目だと思っている？

その言葉に、ズキンと頭に衝撃が走った。

「前に洗脳したのはもう1年以上前だからな。そろそろ解けてくる頃だと思い、尾行していたが案の定だった」

『何の…こと？』

「そうだな。どうせこの会話も忘れる。なら教えてやろう」

ゴソ……とルッチはポケットから何か鞄を取り出した。
小さな、透明の瓶。

「お前は優しすぎるんだ。A」

『…そんなこと』

「本来、人殺しには向いてない＿＿＿だが」

ルッチは片手で小瓶の蓋を器用に開ける。

さっきは私を殺す気は無いと言っていたが、この小瓶の中身はなんだ…？

「今更、逃がすと思うか？」

『あっ…！？』

ガッと近くの壁に押し付けられた。

両腕は頭の上で一つにまとめられ、足の間にルッチの長い脚が入る。

「お前はずっと俺の隣で、殺しをしていれば良い」

『嫌…』

「抵抗するな。無駄だということは分かってるだろう」

お前が殺人に罪悪感を抱く度に

世界政府に対して疑念を持つ度に

「俺がこうして何度も記憶を消してきたことを、お前の身体は覚えてるはずだ」