〈2〉病んでる海賊達の短編集【ワンピース】 (ページ32)

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キッドさんが家に来てから1ヶ月が経った。
そんな彼もそろそろ元の世界に帰るようです。
彼とその仲間達に何度もこっちの世界に来いよ、と誘われたが断った。

私は戦えないし足手まといになるのが目に見えてる。
それに最近は仕事も順調にこなせてるし、もっとこの世界で頑張りたいと思ったのだ。

そんなことを考えて帰り道を歩いていたその時、友達から電話がかかってきた。

「A！あんたの家の近くで殺人鬼が出てるってニュース速報で流れてたんだけど！」

『えっ、でももうすぐ家』

「早くそこから逃げて！」

友達の鬼気迫る声を聞くと、とてもじゃないが嘘とは思えない。
とにかく一度ここから離れようと踵を返したその時

「どこへ行くつもりだ？」

目の前にキッドさんが立っていた。

『キッドさん！無事だったんですね！良か…っ……た……』

駆け寄ろうとしたその時、気づく。
出会った時と同じくらい、身体が血で汚れている。
だけど、だけど違うところがひとつだけある。

傷が、ひとつもついてない。

「この世界は本当に情報が回るのが早ぇな」

殺人犯が出てるってのも・そのすまーとふぉんっていう機械で知ったんだろ？

『…なん、で。こんな』

「お前の居場所を潰すためだ」

見知らぬ男を拾い警察にも届かず、挙げ句の果てには管理不足で大量殺人を引き起こした女。

この世界でのお前の評価は今、地に落ちた。

「俺は今夜、元の世界に帰る。殺人犯はどこかに消え、残るのはお前1人。となると、当然怒りの矛先はお前に向かうよなぁ？」

『…っ！』

「お前は人々にどう答える？あの殺人犯は異世界から来た海賊で、元の世界に帰りましたと馬鹿正直に答えるか？」

『……それ、は』

「せいぜい精神疾患を疑われるのがオチだ」

なぁ、それよりもっと良い方法があるじゃねぇか。

「本当は手荒な真似をするつもりはなかったんだがな。お前がずっと答えを間違えるから、こうするしかなかった」

確かに何度もこちらの世界に来ないか、と誘われた。でも、まさかこんなことになるなんて。

「これが最後の誘いだ。今度は間違えんなよ」

そう言うと彼は私の手を取り、告げた。

確信した表情を浮かべて笑っている。

「俺と共に来い。みんなお前を待ってる」

『……はい。キッド船長』

初めから選択肢は無かった。

彼を出会ったあの日から、選択肢は一つしか無かったのだ。

END