〈2〉病んでる海賊達の短編集【ワンピース】 (ページ3)

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『ハァッ、ハァッ、ハァ…』

森の中に入り、木にもたれかかって息を整える。

凄まじいスピードで走ったことへの疲労、そして何より今まで生きてきた中で感じたことがないくらいの強い恐怖。この2つの要素がAの息を大きく乱していた。

あの人、なんなの…？
私、何か悪いことした？

あの男の目を思い出すだけで、恐怖が蘇る。
捕まったら、殺される。
何故か直感でそう感じた。だから逃げた。

『逃げなきゃ、捕まったらダメ…』

泣きじゃくりたいのを我慢して、耳を澄ませる。
まだ遠いようだが、男が近づいてくるのがわかる。

『もっと、遠くへ…』

震える足をなんとか動かして歩く。

森なんて入ったことがない。どこがどうなってるかなんて全くわからない。野性のウサギだったら森に入った時点で勝ちだったかもしれないが、Aは違う。ただただ、あの男から遠ざかる道を選択するしかない。

『……えっ、嘘！？』

突然、目の前が開けたと思ったら森が終わり、崖になっていた。崖の下には一面の海が広がっている。

そんな、どうしよう。

急いで別の道を探さなきゃ、そう思い踵を返そうとして耳に聞こえてきた草が揺れる音を聞いて固まる。
近い。あの男が近い。
もう、すぐそこまで、来てる。

耳が良いが故に、恐怖を増すことになるなんて。

数十秒後、男はAの前にゆらりと姿を現した。

「狩りは終わりのようだな」

『……っ』

背後は崖だ。
もう、下がれない。

『来ないで…っやだ……だれか、助けて』

恐怖で立っていられなくなり、ペタンと膝をついてしまう。男の気配はもう目の前にあった。

スルッと頬を撫でられ、そのまま顎をクッと上に持ち上げられた。
強制的に目を合わせさせられる。

この瞳だ。この瞳が、とても怖い。

「……ククッ、美味そうだな」

舌舐めずりをして笑う男に、背筋が凍りつく。

逃げなきゃ、はやく逃げなきゃいけないのに

でも、私の顔を掴むこの大きな手を振り解くことは不可能だと何故か私の本能がそう言っている。
この人は、普通の人間じゃないの…？

「このウサギの耳はどのくらいの範囲までの音を拾うことができるんだ？」

『……っ、ひっ』

耳の裏を撫でられて、耳元にフッ息をかけられて、ビクッと身体が震える。その様子を見て男は笑う。恐怖で怯える私と対照的に、まるで私を虐めるのを楽しんでるようだ。