〈2〉病んでる海賊達の短編集【ワンピース】 (ページ13)

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・ページ13

『……え？』

突然、鏡の中がぐにゃりと歪む。

何これ

思わずその場を離れようとした私の腕を、誰かが掴んだ。
…誰かって、誰？
ここには私しかいないのに。

恐る恐る自分の腕を見る。
鏡の中から伸びている＿＿DEATHの刺青がある物騒な手が私の腕をがっしりと掴んでいた。

この腕を、私は知ってる。

『トラファルガー、さん。何で』

「お前、言ったじゃねーか。こっちの世界に来て海賊になりたいって。そんな真摯な願いを神様が叶えてくれたんだよ」

『待って、ちが』

そっちの世界に行ってみたいと、確かに言った。
だけどそれは叶わない夢という前提があったからで。

嫌なことがあると、すぐに死にたいと言うのと同じように。
ただの何気ない一言で。本当に叶えて欲しいなんて思ってない。

『私の世界はこっちなの！離して』

「ククッ…それで、はい分かりましたと俺が言うと思ってるのか？」

『っやだ…やだ……やめて』

ズルズルと一歩、また一歩と鏡の方に引き寄せられる。
力の差は明白だ。抗えるわけがない。
身体が鏡に引きずり込まれる。

視界がぐるりと反転するような感覚。
目を開けると、知らない部屋だった。目の前には鏡。
そして鏡には私の家の洗面所が映っていた。

つまり、ここは

「俺の部屋だ」

『っ！』

「手首が赤くなったな。強く掴みすぎたか。まぁ、安心しろ。俺は医者だ」

丁寧に治療してやるさ。

だがその前に

「これは、もう用済みだな」

『！？』

これ、とは何を意味しているのか、私にはすぐに分かった。
だから、必死でそれに向かって手を伸ばす。

パリィィイン！！

目の前でトラファルガーさんが刀で鏡を砕いた。
それは同時に、私の希望が砕かれたことを意味した。

『……あ、あ』

膝から崩れ落ちた私を、トラファルガーさんが優しく支える。
振りほどく気力は残ってない。

彼は満足そうに笑って言った。

「この異世界に繋がる鏡は、使用者の強い願いに応えてくれることがあるんだとよ」

俺はお前に会ってから、ずっと願っていた。

お前が欲しい。手に入れたい、と。

それでも全然反応が無いから半ば諦めてたんだが、お前がこっちの世界に来たいと願ってくれたおかげだな。

私の赤くなった手首に、トラファルガーさんは口付けた。そして、とても美しく微笑んだ。

「ようこそ異世界へ。A」

end