〈2〉病んでる海賊達の短編集【ワンピース】 (ページ28)

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「住む世界が違うとはよく言ったものだ」

私の背後に回ったルッチさんが耳元で囁く。

ビクリと肩を震わせると、彼は機嫌よさそうに喉を鳴らして笑った。

「俺は職業柄、人を殺さずにはいられないからな。世界が違うというならお前にこっちの世界に来てもらうしかない」

そう言って包丁を握る私の手を撫でる。

その時、私はこの包丁の意味に気付いてしまった。

『い、やっ…！』

包丁を手放そうとしても、私の手を覆うように包むルッチさんの手がそれを許さない。

この男の目的は私の手で、私の好きな人を殺すことだ。

『やだ…やだ…殺したくない…。ルッチさん、お願いします。何でもしますから…』

「駄目だ。こちらの世界に堕とさないと、お前は逃げてしまうだろう？」

だが、お前は優しいからな。
1人ではできないだろうから俺が手伝ってやる。

次の瞬間、叫び声と共に鮮血の血飛沫が舞った。

『あ…あ……』

彼の返り血がべっとりと付く。

そんな、私が、殺した……？

カランッと床に包丁が落ちる。

「初めてにしては上出来じゃないか」

そう言うとルッチさんはポンと肩を叩いた。

「安心しろ。殺したコイツは革命軍のスパイで処理したと上に報告しておく。お前が罪を背負うことはない」

呆然としている私にルッチさんが話しかける。

「だが、もしかしたらそいつの家族が恨んで復讐に来るかもしれないな」

『…っ！』

「外に出るときは気をつけろよ」

誰かに命を狙われて怯えて生きていくなんて…嫌

ガタガタと震える私に男は悪魔の囁きをする。

「あぁ、でも。俺だったらお前を守ってやれるな」

そう言うと彼は私の両頬を掴み、グッと目を合わせてきた。
ポロポロと涙で視界が歪むが、これだけは分かった。
目の前の悪魔は＿＿＿笑っている。

「俺のモノになれ。A。俺がお前をこの世界から一生守ってやる」

あぁ、この悪魔は酷いことを言う。

その世界に堕としたのは他ならぬ貴方なのに。

私が小さく頷いたのを悪魔は見逃さなかった。

グッと引き寄せられて、彼の胸の中に力なく倒れ込む。それと同時に唇が合わさる。

合わさった唇からはほんのりと鉄の味がした。

END