〈1〉病んでる海賊達の短編集【ワンピース】

・ ページ30

『旦那様、お酒おつぎいたしますわ』

無言で差し出された盃にお酒を注ぐ。
無口で静かな人。第一印象はそれだった。


正直、女を買うような人には見えない。
遊郭で女を買う人間には大まかに2種類いると考える。
ひとつは単に欲求不満の人。
もうひとつは夜の寂しさを埋めようとする人。

どちらにせよ、抱かれるのには変わりはないが。
前者と後者では抱かれた後の疲労度が違う。
前者は朝まで行為に付き合わされることがあるから。

遊女はけっして夜の行為で感じてはいけない。
これは暗黙の決まり。
だから自分のペースに持っていき、男を掌の上で転がせる必要がある。




『旦那様のことは何とお呼びすれば良いでしょうか』

「ホーキンス」

『ほうきんす？様でありんすか？外国の方の名前は難しいですね』

「…まぁな」



会話が途切れる。
どうしよう。



『ホーキンス様の髪はとても綺麗ですね』

「…そうか？ただ伸ばしているだけだが」

『えぇ、遠目から見たとき綺麗な女性の方かと思ってしまいました』



その言葉の後、彼からの返事がなくなった。
どうしたのだろうと彼の顔を覗き見て、失言だったことに気づく。
雰囲気が、変わった。



『も、申し訳』

「黙れ」


カラン、と盃が畳に落ちてコロコロと転がる。
次の瞬間、私も盃と同じように畳の上に押し倒されていた。



『……っ』


動け、ない。
この男がもともと大きいということもあり、四肢というより体全体を押さえ込まれてしまっている。

そのままグッと顔を近づけられた。
視界が、彼の顔で埋まる。




「俺が男だということを思い知らせてやる」


ゾッとするほど冷淡な声。

怖い。





「口を開けろ」

『ん……む』



唇を合わせられ、そのまま舌を入れられ絡めとられる。待って、この人上手い…！

遊女が客に遊ばれてどうするんだ！
主導権を奪おうと必死に舌を動かす




「ふふ、必死だな」

『……っ、そんなんじゃ』



図星で顔が赤くなる。
何とかして自分のペースに持っていこうと、身をよじるも軽々と押さえ込まれる。




「暴れるな。どうあがいても抜け出せない」

『……っ、わっちに任せてはいただけないでしょうか？旦那様が気持ちよくなれるよう精一杯努力させていただきますから』



そう言った後の彼のセリフを聞いて背筋が凍りつく。







「違うだろう？この行為は男が女を気持ちよくさせるものだ」




それは男を手玉に取らなければならない遊女にとって、恐ろしい宣告だった。

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