七人目の六年生の話伍

鷹尾と竹谷　思いのぶつかり合い ページ32

「あの、A先輩…」

『…』



長い間進めていた足は竹谷の一声でピタリと止まった

自分より少し前にいたAに対して竹谷はその表情を伺うことができなかった。



『……竹谷』

「はい」

『用具委員会は、楽しい？』

「？ はい」

『留三郎にこき使われてない？』

「とんでもないです！逆にオレが気を使われるくらいです」

『仕事は、慣れた？』

「まぁ、修繕作業とかならオレもよくやってましたから
その他の事は用具委員会の後輩達や食満先輩の力を借りたりでまだまだです」

『……そっか』

そういうと、Aは振り返って竹谷と視線を合わせる
久々に見たAの目の光が揺れているのを、竹谷は見逃さなかった。

「…」
『…』

少しの沈黙が二人を見守る。
最初にそれを破ったのはAで、躊躇いがちに出た言葉は思いの外弱々しく、今にも消えそうなほどだった


『……戻って、来てほしい』

「！」

『本当は、お前が望むなら俺は黙ってお前を行かせようと思ってた。

でもいざその現実を目の当たりした時、俺は…躊躇った』

「先輩、」

『おかしいだろ？
俺が自分で離したのに、その反面心の奥でまだお前が惜しいと思ってる』

「…っ」




心の奥にしまってた“本音”を零すA
委員会の委員長としてでも、先輩としてでもなく

純粋な鷹尾Aの気持ちであった。


『わがままを言ってるのはわかってる
お前が望まないと言うなら、俺は快く留三郎の持ってきた書類に判を押す』


でも、その前に…



『今までの俺の所業全て謝る。望むならお前の言う事なんでも聞く』


「…ッッなんでもなんて、簡単に言わない下さい

その言葉一つで欲深い奴は調子に乗る
オレがあなたにどんな感情を抱いてるか、知ってるでしょ」

『あぁ、知ってるよ』

「ッ…だったら、」

『竹谷。俺はいたって真面目だよ』


竹谷はAの目を見つめる。Aもそれに応えるように見つめ返す。


その目に、偽りは感じられなかった

本気なのだと、思わざるおえない




「…」
『…』




再び流れる静寂。
次にそれを破ったのは竹谷の深く重いため息だった



「はぁあぁあ…」

『え、』



「降参です」

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