寒いね ページ17
『んじゃ。私はこのひっつき虫実家に置いて来るよ
この近くにちょうどさぎりさんもいるらしいし』
「わかった。私も歌姫先輩家に送ってから帰るよ」
それにしても…と、硝子が私達をジトーと見ながらニヤニヤしてる
『何よ。言いたいことあるなら言ってよ』
「んや〜?今日はお姫様抱っこじゃないんだなぁと思って」
今現在、私は再び寝落ちた悟をおんぶしてる状態である
高専時代一度だけ疲労困憊で倒れた悟を見つけた時
咄嗟にお姫様抱っこで運んだのは懐かしい思い出だが、できれば思い出したくない。
『高専の時よりも重くなったからね。こいつ
それに公の場で大の男がか弱い乙女にお姫様抱っこされてる絵面なんて悟のプライドが許さないでしょ』
「…誰が、か弱い乙女?」
『え?私でしょ?』
「百歩譲って乙女はわかる。でもか弱い乙女はそんな大荷物持てないからな?
ちなみに、普通の乙女も多分無理だ」
『まじか』
「でもまぁ。それのおかげで面白いもんがまた見れたから
私としては全然いいけど」
一足早くタクシーを捕まえた硝子達と別れを告げて
私は悟を連れてさぎりさんが来るまで近くのベンチに腰掛ける
まだ肌寒さを残す季節で、ほろ酔いのほてった体には心地いい風が吹いた
『…あんたも、人間なんだもんね。悟』
ちょっとした量の酒で酔い潰れ
普段はあまり聞かないような奥底の弱音を聞いた
最強最強と謳われる彼でも、同じ人間だ。
結局私らと何ら変わらない
“さみしいよ、A”
『寂しいよね。分かるよ…』
私もずっと感じていた。
傑がいなくなってから、空いてしまったその場所
(あんたもそう思ってたんでしょ?ずっと)
『寒いな…』
吹いた風はどこか冷たくて、体ではなく心に堪えた。
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作者名:伊綱 | 作成日時:2023年10月2日 4時