嘉黒弥右衛門 ページ45
「やめよ」
叫び声ではないのに、よく響く低い声
その人に会う為にここまで来たはずなのに、今はどうしようもない逃走欲求に駆られる
「その子はわたしの客人だ。手出し無用
おいで。少し話をしよう」
『…』
導かれるまま、俺は客間へと向かう。
対面する形で正座して改めて顔を見合わせる
「そう固くなるな。茶でも飲んで落ち着きなさい
紅藤の淹れる茶は美味しいのだよ」
『……いただきます』
「さっそくだがお前がここに来た理由を聞こうか?」
『……あなたに、お聞きしたい事があって参りました』
「言ってみなさい」
チリン…
何処からともなく聞こえた音。不審に思いながらも、一呼吸置いてから俺は父を見つめる
『単刀直入にお聞きします
2年前、鉢屋家の生き残りを探し出して殺す為に忍術学園の場所を教えて襲わせる様に仕向けたのは…
あなたですか?頭領』
一寸たりとも目を逸らさず問う
少し間を空けたあと、不気味に笑いながら父は「そうだ」と肯定した
「なんだ?わたしがあっさり認めたのがそんなに驚く事か?
どうせ知る事になる真実だ。今更誤魔化すだけ面倒というもの」
『何故、そんな事を…』
チリン…
(また、あの音)
「分かるだろ?はちや本家を含めて分家もかなりの手練れがいる。そのはちやが衰退すればわたし達嘉黒家が忍び一族のトップに君臨する
そうすれば依頼は増え、金も上がる」
『…金、それが目的か』
「それ以外に何がある」
『はちやは戦いなど望んではいなかった。
あんたらの勝手な解釈でどれだけの血が流れた事か』
「必ず仇を成さないとは限らないだろ?
依頼されれば心を捨て城主に従い親兄弟、友すら手にかける
それが忍びの本来の在り方だろ」
『…』
何も言い返せなかった
父の言う通りだったから
プロになればいずれその通りの未来になる
だが、それでも納得いくわけもない
俺は真っ直ぐ父を睨みつける
「……うむ。随分と生意気な目をする様になったな、屍」
『!!』
殺気が充満し、肌がピリつく感覚に襲われて体が震える
「……そういえば確か、忍術学園にいた鉢屋の血族は殺した娘以外にもう一人、いるらしいじゃないか
まだ在学中だろう?」
『な、あなた…まさか』
「…ふふふ、そのまさかよ」
『!…やめろ!!…、…!?』
咄嗟に立ち上がった瞬間、視界が歪む
立っていられなくてそのまま床へ膝をつく
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伊綱(プロフ) - 紫さん» ありがとうございますありがとうございます!!めちゃくちゃ嬉しいです頑張りますっっ (2020年12月23日 12時) (レス) id: f89eb70165 (このIDを非表示/違反報告)
紫 - この作品むっちゃ好きです。更新楽しみにしてます (2020年12月22日 3時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
伊綱(プロフ) - 葵さん» ありがとうございます!とても嬉しいですっっ (2020年10月28日 15時) (レス) id: f89eb70165 (このIDを非表示/違反報告)
葵 - 面白かったです!更新楽しみにしてます! (2020年10月28日 14時) (レス) id: 1d63efc7c2 (このIDを非表示/違反報告)
伊綱(プロフ) - 猫築かなめさん» ありがとうございます!!なるべく更新できるよう頑張ります (2020年10月23日 11時) (レス) id: f89eb70165 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伊綱 | 作成日時:2020年7月25日 13時