記憶 (ページ10)

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私はなぜか末澤さんの部屋にいる。

一緒に朝ご飯を食べようと誘われたので、どこかのモーニングにでも連れて行かれるのかと思った。

まあ、モーニングなんて贅沢できないから、少し安心しているんだけど。

私の部屋と同じ、六畳間と簡易的なキッチン。

でも内実が私の部屋とは大違いだった。

壁には高そうな洋服がずらり。

香水がショップみたいに並べてある棚。

テレビすらない私の部屋とは比べ物にならないほど物が多く、少しだけ狭く感じる。

「花子ちゃん、一緒につくろー。」

キッチンから末澤さんがこちらを覗いてそう言った。

「花子ちゃん味噌汁作ってくれへん？具とかは好きにしてええから。」

「わっかりましたー…。」

狭いキッチンで2人っていうのは中々距離が近くて、私は末澤さんの目を見ることが出来ない。

「花子ちゃん、なんかええ匂いすんな。」

末澤さんは大根を切る私の両側に手を置いた。

「ふぇっ、！」

いや待って待って距離感おかしすぎるって。

びっくりして変な声出ちゃったじゃん。

「なあーこれなんの匂い？俺これ好き。」

私の反応に気づいてるのかいないのか、末澤さんは私の耳元で囁く。

「…っえっと…、シャンプーか柔軟剤、ですかね…。」

「…何そんなカチコチになってんねん。」

くくっと笑った末澤さんと目が合う。

「花子ちゃん？あんま男の部屋にのこのこ付いてきちゃだめやで？」

私とは正反対の余裕の笑みを浮かべる末澤さん。

「いつ襲われるかわからんよー。」

私の頭をぐしゃっと撫でると私から離れ、冷蔵庫を開けて鼻歌を歌いだした。

(でも、末澤さんは襲わないじゃん…)

別に襲われたっていいし。

出会って数日の男の人になんてこと考えてるんだ私は。