The world in a fall destination (ページ2)

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第１幕＿＿＿The cat has fallen on her knee. ページ2

はあ、と白く曇る息を吐いて冷えた指先を擦り合わせる。

＿＿＿ああ、もう冬だ。

季節柄どんよりと曇る空は別段明るくも暗くもない。マフラーに埋めていた鼻先がちらちらと降る雪を掠めて舞い降りる様を見て＿＿＿有永Aは大きくため息をついた。

舞い降りる、だなんて遠回しな表現がぱっと頭に浮かんだのはきっと先程まで熱気のこもった授業を繰り広げてくれた予備校講師のせいだろう。しきりに"落ちる"だの"すべる"だのの言葉を使うなと熱弁していたその講師に生徒は過敏に反応するでもなく淡白に頷くだけだった。………まあ講師はそれに構わず延々と熱弁していたのだが。

最近の子供(といってもAも現代の子供ではあるが)は人に対して反応が薄いのはちょっとした世の常識になっている。

"悟り世代"とは誰が言い出したのだか知らないが言い得て妙だよ、と兄が言っていたのを思い出した。"なんだか味気ないよな、そういうのって"と、言っていたのも。まあAはさして気にもしていないわけだが。

その兄とて特別対話(コミュニケーション)能力が優れている訳ではないけれど。けれども少なくない人達に慕われているので妙に納得したのを覚えている。

『ただいまー』

家の玄関を開けるとふわりと香る美味しそうな香り。エプロン姿でぱたぱたと走ってきた兄＿＿＿有永涼はにっこりと笑っておたまをくるくると指先で回した。

「おかえり、A。塾お疲れ様。」

『疲れたよ涼兄ちゃんー』

「雪降ってるみたいだしな。夕飯出来てるぞ。」

『やった、お腹すいてたんだよね！』

Aの帽子についた雪を払ってやって微笑む涼は所謂女子力高い系男子というやつらしい。顔の造形が優しげ且つやること為すことの気遣いに悩殺(死語)される人がいるとかいないとか。

たまに家に来る涼の友人にそう吹き込まれてまあそうだろうなと納得したのはまだ記憶に新しい。ハイスペックだもん私の兄ちゃんは！と胸を張ったらこのシスコンブラコンビと呆れられたのは全く解せなかったが。

『おー！鍋だ！』

「A好きだよな鍋料理。ここんとこ毎日リクエスト鍋だし……」

『だってあったまるからねー』

「それはそうだが作り甲斐がないだろ、具材切るだけだし、」

『んんむ、湯豆腐美味しー』

「………もう聞いてねーな」

はふはふと美味しそうに豆腐を頬張るAに呆れつつも鍋をつつく涼。このほのぼのとした空気で毎日を過ごすことが有永家の日常となっていた。