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私は黙って、目の前のお菓子だけを見ていた。
部屋をじろじろ見るのはマナー違反だと思ったし、かといって目の前の女性、もとい場地くんのお母さんを見つめるのはなんだか気が引けた。
母の葬式の際に、涙を流す大人は見てきたけれど、どれもきっと直視するべきものではない。
ただ、私の前だからだろう。
声をかみ殺す様に唇を噛んで涙を流すお母さんに、一言だけ声を掛けた。
「あの、口…口、開けたまま泣くと、声が出ないんですよ。私、見てませんから。気にしてませんから」
この泣き方を、私は父に教わった。
男のくせに情けないよな、なんて時代錯誤なことを言って泣きながら笑った父は、私にこの悲しい泣き方を教えてくれたのだ。
場地くんはお母さんの隣にいた。
心底申し訳なさそうな顔をして、ぼそぼそと、私にも聞こえないくらい小さな声で「ごめん」と、その小さな三文字を漏らす。
母親思いな場地くんの表情が痛々しくて思わず目を逸らした。
見ているのが苦痛だとかそういうわけじゃない。
ただこの空間が、“親子の空間”だったから。
場地くんのお母さんは一通り読み終わったのか、そっと手紙を閉じる。
綺麗に手紙を畳んだ指は涙をぬぐったせいか少しだけ濡れていた。
「我が子ながら、字、汚いわね」
「読めました？」
「ふふ…何年あの子の親やってたと思うの」
可笑しそうに笑ったお母さんの口元に覗く八重歯に場地くんを感じた。
お母さんは少し落ち着いたのか、自分もお茶を一口飲んで、それから手紙をしまい込む。
私に向き直ったお母さんの表情は既に、母の顔だ。
うっすらと頬に残る涙の痕以外は、私を玄関先で迎えてくれた優しい表情だった。
「…、お手紙、持ってきてくれてありがとうね」
「いえ！私が好きでもってきただけなので」
「そうだ。まだ名前を聞いていなかったわ。あなた、お名前は？」
「あ…名乗り忘れてすみません。笹岡Aです。」
「笹岡さん。改めてお礼を言わせて頂戴。私、まさかあの子がこんな手紙書いてるなんて思わなかったわ。一虎くんには筆まめだったみたいだけどね」
何処か懐かしそうに、目を細めてそう告げる。
それからお母さんは私を見つめると、「彼女？」とからりとした笑顔で笑った。
「違います！」
「あら、そうなの。圭介ったら年上が好きなのねって思ってたのに」
その軽快な声色から見るに、どうやらからかわれているのだろう。
そんな私を楽しそうに一度眺めた後、彼女が案内してくれたのは場地くんの自室だった。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
