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突然ずぶ濡れになった体に、脳みそが処理落ちして固まる。
突然のことに場地くんすらも茫然と私を眺めて、それから聞いたこともないくらいの大声でお腹を抱えて笑っていた。
私も私で、寒いやら冷たいやらでわけがわからなくて、でもなんだかその状況が一周まわっておかしくて。
先ほどまで腹の底で淀んでいた感情が全て吹き飛んでしまうくらいには、私も自然と笑っていた。
「っははは!なんでンなピンポイントで当たンだよっ!くくッ…ダメだ!腹いてえ」
「っふふふ…!そんなに笑うことっあははっ!ないじゃん!」
大慌てでやってきた職員の方にタオルと着替え代わりにとTシャツをもらったものの、最後まで席を離れるのがなんだかもったいなくって最後までショーは見届けた。
私に思い切り水を浴びせたイルカが一度近くを泳いだけれど、イルカが何を思っているのかわからない私にさえわかるくらいに、件のイルカはどこか誇らしげな様子に見える。
まさに、なんというか、「してやったり」とでも言うような、そんな感じ。
その後、無事に終わったショー会場を背に、私たちは野外ステージを後にした。
幸い、水の被害を受けたのは主に髪と上着だけだったみたいで、タオルで髪を軽く拭く程度で済んだ。あとは必死に私の上着を乾かしてくれた職員さんにも感謝しなくてはならない。
全て元通り、とはいかないものの、入ってきた時と同じ姿で水族館を出た。
空はオレンジ色の黄昏時から、ブルーアワーに変化を遂げている。
濃い空色にオレンジを溶かしたような色が印象的だった。
「いやあ、ほんと。傑作だったな」
「もう、うるさいよ」
「だってよぉあんな…ははっ」
「笑いすぎ!」
いつも通りの、会話だった。
朝起きて、弟たちが起きてくるまでの時間。
学校へ向かう時の時間。
学校が終わって、墓参りに向かう時間。
そこから家に帰る時間。
夕食の準備をする時間、入浴を終えて、二人きりで話す時間。
当たり前に存在した私たちの時間。
いつもより特別なこともなく、軽快なやり取りで。
言葉を交わして歩を進めて、突然、彼が、立ち止まった。
「A」
覚えている。
『は…はっきり話してもらっていい!?ちょっと聞こえなくて!』
『だったら耳塞ぐなよ』
初めて言葉を交わした日の事。
数週間前、私たちはここで初めて、出会ったのだ。
顔を合わせたことは、もっと、ずっと前からあったけれど。
「なあ」
視線がかち合う。
「ありがとな」
「さよなら」と、聞こえた。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時