【64】 ページ18
ぷかぷか、ぷかぷかと、気泡が上へ上へと上がっていく。
視線で追って、それがやがて弾けるのを見届けた。
厚い硝子の向こう側。自由に泳ぐ魚を見ながら、私と場地くんの口から同時に零れたのは感嘆の声。
水族館なんて久々に来た。弟たちに強請られることはあったけれど、忙しさを理由にのらりくらりと躱していた。こんなにいいところなら、今度は父も合わせて四人で遊びにいくのもいいのかもしれない。
「あの魚すげー顔してるぞ」
「…どこが目？」
「さぁ…知らねぇけど…」
青色が反射して私の顔を照らしている。
場地くんに光があたることはない。
歩く人も、道も、どれも光を受けてキラキラと輝いているのに、その中でたった一人異質にそこにいる場地くんが、私から見ればなんだか神様みたいに見えた。
周りが輝いているから、余計にそう思ってしまうのかもしれない。
大きな魚
小さな魚の群れ
浮いては沈んでを繰り返すクラゲ
どこか異世界にでも迷い込んでしまったような気にさえさせる青の世界は、息つく間もなく私たちを魅了した。
「すげえな。魚」
「一階は主に魚が展示されてるみたいだよ。クラゲとか」
「へえ」
食い入るように魚を見る場地くんが、年相応の少年の顔をしているのが嬉しい。
数週間共に過ごして、何度か見たその表情は、なんだか私の知らない場地くんの「底」を見せてくれているようで。
「二階はカワウソとかいるって」
「は！？カワウソ！？」
「…あははっ！嬉しそうだね」
「う…うるせぇバカ」
カワウソに大きく反応した場地くんがおかしくって、思わず小さく声をあげて笑った。
傍から見れば、ひとりで笑っている奇特な人間に見えるだろう。幸いそこまで人はいないけれど。
頬を掻きながら唇を尖らせるそのしぐさは、もう何度も見た。
私がここで「拗ねないでよ」なんて声を掛ければ、また不満げに声を漏らすのも知っている。
目を瞑れば瞼の裏に見える程度には、こうして場地くんと共に生活をしてきた。
「変なツラの魚ばっかり見てないで、行くぞ」
「はいはい」
手を引かれるわけでは無い。
それでも、当たり前のように差し出された手に、自身の手を重ねる。
感覚はない。それでも今、私たちは繋がっていた。
「連れてきてくれてありがとな」
前を歩く彼がどんな顔をしているのか、見ることは叶わない。
その酷く優しい声色をしたそれを本心だと信じたいのは、ただの私の希望だった。
「どういたしまして」
今言えるのは、この言葉だけ。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
