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「笹岡さん、よかったら一緒にご飯食べない?」
「え?」
その日は、唐突にやってきた。
目の前にいるのは、辛うじて名前を憶えている程度のかかわりしかないはずのクラスメイト。
どこかもじもじとした様子で私に話しかける彼女の意図が読み取れなくて、解きかけていたお弁当袋を結びなおした。
何かの罰ゲームかとも思ったけれど、周りを見渡しても私たちに注目している人はいない。
どうやら本当に、純粋に私とお昼を食べようと誘ってきているらしいことに気が付いて唾を飲み込んだ。
「…なんで私?」
「あ、いや…前から話してみたいなあって思ってたんだよ。でも笹岡さん、いつもお弁当食べたらさっさと自習しちゃうし、部活も入ってないから帰るのも早いでしょ?タイミング、つかめなくって」
「あ、いや、まぁ」
挙動不審になってしまう自分が恥ずかしくて小さく俯く。
昨日は夜遅いから、と理由をつけて共に帰ってきた場地くんは、私の隣で呆れたような表情で続けた。
「飯くらい一緒に食ったらいいじゃねぇか。ダチ作れよ」
「私が友達いないみたいな言い方して…!」
「笹岡さん?」
「え!?あ、いや…はは…なんでもない」
お言葉に甘えて、と彼女を食事をすることにする。
嬉しそうに笑ったクラスメイトは、お邪魔しますと言いながら机をくっつけてきた。
友達と食事をするという文化がなかったせいか、妙に新鮮でそわそわする。
彼女はそんな私に気が付いたのか、気を遣ったようにこちらに話しかけてきた。
「この前ね、雑貨屋さんで笹岡さんのこと見たんだよ」
「え?この前って」
「先週の日曜日。弟くんたちと一緒だったでしょ」
先週の日曜日というと、場地くんの手紙の便箋を選びに出かけた日だ。
弟たちを家に置き去りにするのも気が引けたし、何よりたまには一緒に出掛けたいと思って連れ出した。
まさかクラスメイトに見られているとは思わなかったけれど。
クラスメイトの顔をそんなに把握していないのがバレやしないだろうかとひやひやしている私のことがわかるのか否か、彼女は小さく微笑んだ。
「凄くお姉さんしてるなあって思ったの。そしたら、いつも部活に入らず帰宅するのもなんだか合点がいったのよ。私、意外と臆せず話しかければ仲良くなれるんじゃないかって」
実際そうだったし、と微笑みかけるクラスメイトに気恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
バレないようにそろりと場地くんに目配せすれば、一瞬視線がかち合った後、そっと逸らされた。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時