【72】 ページ26
「おはよう、笹岡さん」
学校について、私にそう声を掛けてきたのは先日、昼食を共にしたクラスメイトだった。
彼女は毒気の無い人のよさそうな笑顔を浮かべて私と朝の挨拶を交わしてくる。
その言葉に「おはよう」と小さく返して席に着く。
他のクラスメイトから見れば、その返事の音にも調子にも妙なところは無いというだろう私の微細な変化に彼女は気が付いたらしい。
穏やかな表情はさっ、とその顔色を変え、「何かあったの？」と声色には心配が滲んでいた。
なんでもない、と突き放そうとして言葉が喉に詰まる。
彼女に私の話をしたら、どんな反応をされるだろうか。
意味の分からない幻覚を見る異常者だと思われるだろうか。
優しい彼女のことだ。そんなバカげた話を聞いても、にこやかに聞いてくれるだろうか。
興味が三割程度、諦めが五割程度、残りは彼女に寄せた期待。
『オマエも』
『なに？』
『多分、オレがオマエから見えなくなっても、オマエはオマエで、絶対ダチとかできっから』
はっきり口にした場地くんの言葉頭を回る。
一歩、一歩踏み出してみよう。
もしダメだったらいつもの生活に戻るだけだ。怖くない。
一瞬俯いて、それからもう一度、今度は視線でしっかりと彼女を捉える。
「あの、さ」
「うん」
「…聞いてほしいことがあるんだけど」
私にそう言われた彼女は優しい声色と表情で「何でも話して」とそう言って、途中で口出しするわけでもなく、私の話を聞いてくれた。
転んだ勢いで五芒星によく似た傷が出来たこと。
それから幽霊が見えるようになったこと。
そこで出会った場地くんと、場地くんのお願いを叶えるために色々な所へ行ったこと。
彼女から見て私が変わったと思うならそれは場地くんのおかげで、私一人で何かできたわけじゃないということ。
彼に沢山勇気をもらって、彼のおかげで世界も広がった事。
＿＿もう、会えないこと。
度々言葉に詰まる私をなだめるように背中を摩りながら、彼女は最後まで相槌を打っていた。
私の話が終わっても、直ぐに何かを口にする様子はない。
そして、幾らか言葉を選ぶようなしぐさを見せてから、うんと素敵な笑顔で音を紡いだ。
「笹岡さん」
「はは…ごめんね、非現実的すぎて引いたでしょ。わ、忘れていいから！はは…ごめん、ほん、」
「素敵な恋をしたんだね」
そう言って私を見つめて微笑む彼女に、救われたような心地がした。
「…、そう。恋、してたんだ、私」
言葉にすると、恋は存外、軽い語感だった。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
