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現実なんて見せないでほしかった。
来世への約束なんて不確定なものに縋る大人になんてなりたくないから。
そうして場地くんを信じて、待ち続けて、その先にあるのが幸福だなんてそんなわけがないことくらい私でもわかる。
「待たない。ほんと、あんたってバカなんだから」
ねぇ、場地くん。
あんたが生まれ変わったら、きっと周りにはあんたと同い年で、綺麗で、可愛らしくて、魅力的な子なんてごまんといるんだよ。
ねぇ、場地くん。
場地くんがどこかで生まれている間も、私の時間は進み続けてしまうんだよ。
ねぇ、場地くん。
人間の記憶というのは曖昧で、場地くんの顔も、声色も、私はそんなに経たないうちに忘れてしまうんだよ。
どれだけ忘れたくないと怯えて、泣いて、懇願しても、それを叶えてくれる神様なんて存在はいないから。
ねぇ、場地くん。
「…そうかよ」
気が付かないでいてほしいのに、きっと場地くんには見抜かれてしまうのだろう。
振り絞るみたいに喉元からこぼれた声が震えた。
限界だった。
苦しかった。
傍にいてほしかった。
これからも何でもないことを話して、笑って、いろんなところに行きたかった。
胸の奥の底の底。
ずっと奥深くに眠っていた我儘。
鼻の奥がつんとする。
触れられない場地くんの手が私の頬に添えられた。
感触はない。
溶けるような熱もない。
「場地くん」
このまま一緒に連れていってくれ、とは言えなかった。
私には残してきたものが多すぎたし、何より未来が欲しかった。
「生まれ変わったらさ」
私の言葉を聞きながら、ゆっくりと場地くんの端正な顔が近づく。
「せめて、嫌いなあんたでいてよ」
そうしたらきっと、私はあんたに惹かれることもないから。
何も知らないあんたとは交わらないで生きていくの。
黙らせるように重ねられた唇に感触はない。
それでも確かに彼は私に触れていて、私も、ただそれに応えるように彼の手に自分の掌を合わせる。
場地くんが生きている頃に出会いたかったな。
いやでも、きっとお互い、そういう対象にすらならないのかな。
奇妙な縁で結ばれた関係。
終わりがわかっていた関係。
どこまでも不毛で、報われなくて、それでも焦がれた恋だった。
「さよなら」
私の大好きだった笑顔を携えて、溶ける様に場地くんは消えていく。
思わず崩れ落ちて、声をあげて泣いた。
好きだったよ。
大好きだったよ。
もっと一緒に生きたかったよ。
声にならないそれは、明るい夜空に溶けて消えた。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時