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蒼弥が部屋にくることなんて、別に特別なことでもなんでもない。
それなのに。
久しぶりに顔を合わせたせいなのか、ちゃんと顔が見れない。
「Aさぁ、テニス部に入ったんだってね」
「うん…何で知ってるの?」
「石川が言ってた」
石川君は、小学生のときに蒼弥が仲良くしてた友達の一人だ。
「連絡…取ってるんだね」
胸に、何かがチクリとささった。
私とは、話さなくなったのに?
「面白いじゃん、あいつ」
そう言いながら、キョロキョロと本棚を見ている。
ねぇ、何しに来たの?
そう言いかけたときに、蒼弥が一冊の雑誌に手を伸ばした。
「A、ジャニーズに興味あったっけ?」
蒼弥が見つけたそれはアイドル雑誌で、私が蒼弥を見るために買ったものだった。
「ちょっと、人のもの勝手に見ないでよ」
まずい、非常にまずい。
蒼弥のページにチェックが入れてある。
もし、本人にバレたら恥ずかしいどころの話じゃない。
蒼弥がページを開こうとするので、慌ててその手を強引に掴んだ。
「いいじゃん、見せてよ」
まさか自分のページにチェックが入れてあるとは思ってもみない蒼弥が、楽しそうに雑誌をめくろうとする。
掴んだ蒼弥の手を逆に掴まれてしまい、更に蒼弥を意識してしまう。
「やだ、恥ずかしいから」
「なんで恥ずかしいの?やっぱりAもイケメンが好き?」
言葉に感じる違和感。
「蒼弥?」
「ローラースケートだけしか出来ない俺が目立つのは、イケメン好きとしては許せない感じ?」
「蒼弥」
持っていた雑誌をそっと机の上に置いて、その手を私に伸ばしてくる。
「小さい頃みたいに、してもいい?」
眉毛を下げて、泣きそうな顔で笑う蒼弥。
私の知ってる、我慢の限界がきたときの蒼弥だった。
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作者名:大宮さくら | 作成日時:2020年4月21日 22時