・ ページ32
その日は
あと3日で夏休みという日だった。
朝、テレビを見ていた時、ストーカー規制法違反で都内の若い男が逮捕されたというニュースが流れた。
その画面に目をやって驚いた。
見覚えのある、私の後をつけていた男だった。
すぐにお母さんを呼んで、画面を指しながら説明した。
逮捕という言葉を聞いて、二人でほっとした。
そのままその事を
いつものように家の前で待っていた蒼弥に伝える。
「マジ！A良かったじゃん！」
蒼弥にお礼を言って、お姉ちゃんにも伝えてもらった。
「これで、Aの護衛も終わりだぁ」
まるで、重たい荷物を背中から下ろすように蒼弥が言った。
なぜか
遠くのセミの鳴き声が
すごくはっきりと耳に聞こえてきた
蒼弥は
そういう意味で言ったんじゃないかもしれない。
でも私には
″やっと自由になれる″
そんな風に聞こえてしまった。
私が頼んだ訳じゃないのに
蒼弥が勝手に心配して
勝手に一緒に登校して
勝手にお姉ちゃんに頼んだのに
いつもより早歩きになった私に
蒼弥が小さな声で後ろから「どした？」って聞いてくる
けど
答えたくなくて
無視して歩いた。
蒼弥の言い方がまるで
″してやってる″的に聞こえてしまったのも腹立たしいし
それに対して
可愛くない態度をとってしまった自分にも腹立たしい。
なによりも
私は毎朝蒼弥に会えて嬉しかったのに
蒼弥はただの義務感で会ってくれていたのかと思うと
すごく悲しくなった。
早足で歩きながら考える
私はどうしたい？
昨夜
夏休みはテレビ局のイベントにメインで出演するから
しばらく仕事が忙しくて会えなくなりそうだと
眉毛を下げて話していた蒼弥。
そう
忘れたことはなかったのに
このところの１ヶ月がすごく
楽しくて
嬉しくて
幸せで
心のどこかに追いやっていたのかもしれない
彼がアイドルだということを
よし
振り向いて蒼弥に
「好き」だと素直に言おう。
私を心配して守ってくれていたと思っていたこと
毎朝会えて嬉しいと思ってること
全部
ちゃんと伝えよう。
駅が見えてくる。
意を決して
振り向く。
どこにも蒼弥はいなかった
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 172人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：大宮さくら | 作成日時：2020年4月21日 22時
