愛をこめて騒ごう (ページ20)

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握っていた手をAの肩にまわして
そのまま頭を俺の胸にコテンって倒した。

反対側の手で背中をトントンしながら
大丈夫って何度も繰り返し伝えた。

Aが俺の名前を呼びながら泣き出した。

瑞っくんの話はこうだった。

帰宅途中、乗り込んだ電車の車両にものすごく顔色の悪い女の子がいた。
よく見ると、それは昨日俺の部屋で会ったAだと気が付いた。

けど、どこでファンの子が見てるか分からない。

すぐに声をかけるのを躊躇してたら、Aの近くにいた男が不自然にAに近寄っていくのが分かった。

Aの肩がビクッて大きく揺れた。
携帯を取り出して、どこかに電話をかける。

Aの唇が「たすけて」って動いたのが分かったから、これはただ事ではないと判断。

次の停車駅に着くギリギリの所でAに名乗り出て、一緒に電車を降りた……

「A、あってる？」

「ねぇ、何で確認取るの！」

「…あってる…井上さんに助けてもらった」

それでそのまま、最寄り駅まで送ってもらったらしい。

到着した安心感から、座り込んでしまったA。

そこに俺、登場。

「瑞っくん、ごめん。」

すぐに、謝った。
誤解して、あやうく瑞っくんの綺麗な顔に傷をつけてしまう勢いだった。

「がりさんにすぐ連絡すれば良かったのに、僕もごめん。
Aちゃんに何事もなくて、本当に良かった」

胸の中のAが、ゆっくり顔をあげた。
さっきまでの涙と震えは止まっていた。

「井上さん、ありがとうございます」

大丈夫って俺が聞いたら
うんってAが言う。

「瑞っくん、俺送っていくから」

付き合いの長い瑞っくんは、じゃあ僕帰るよって
すぐに察してくれて、ヒラヒラと手を振る。

「ごめん、気がついてやれなくて」

Aが首を横に振りながら歩き出した。

手をつないで安心させてあげたかったけど。

できない、もどかしさ。

Aはまだ不安そうな顔で辺りを見ながら歩いているのに

今の俺は
外じゃ何もできない。