ストックホルム症候群 [ 死柄木弔 ] (ページ5)

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…どのくらい経ったのだろうか。

肌寒かった筈なのにとても暖かい。

布団に寝かされている、と分かったのはすぐだった。

静かだ。

布団の布擦れの音しか聞こえない。

ゆっくりと身体を起こす。

少しすると、扉が開いた。

｢おはようA…良く寝れたか？｣

『…はい、布団ありがとうございます』

｢Aに風邪引いて欲しくないからな｣

『…あの、昨日…なのかも分かりませんが、私の事を調べた、と言ってましたよね』

｢あぁ……そうそう、ヴィランの客を専門とした探偵みたいなのがいてさ、ソイツに頼んだ｣

『…そうですか』

｢てかさ、色々教えてくれよ。何で自殺しようとしたかとか…｣

…まぁ、あんなクズ達にプライバシーもないか。

『…まずは母親の話でもしますか』

｢あぁ｣

『私の母親はどうしようも無い女でした…家事もせず、仕事で得た給料はすべてギャンブルか酒、服に使い…すぐ癇癪を起こす……争い事が嫌いな父親は耐え切れず出て行きました』

｢へぇ…｣

『それから母は私に暴力を振るうようになりました…学校では無個性をバカにされて虐められ…毎日増える傷を消し去ってしまいたかったんです…』

｢……そっか｣

いつの間にか零れていた涙が拭われ、温もりに包まれる。

｢…大丈夫、ここでは誰もお前の事を傷付けたりしないさ…｣

誰かに抱き締めて貰ったことなんてない。

そのせいか、涙は更に溢れた。

暖かくて、安心する。

幸せって…こんな感じなんだろうか…