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「紫耀が起きるかも…」
唇が離れた後、そう言って恥ずかしそうに俯く君の手を取り弄ぶのは、
単なる俺の照れ隠し。
「大丈夫。彼奴爆睡してるから。」
柔らかくて女性らしい細い指。でも、指先が妙に硬い。
「ここ硬なってる…」
「ギター弾くから。」
「あー、そっか…」
そういえば、もうずっと君の歌を聴いていない。
夏休みやからってわけじゃなくて、その前から君は歌わなくなっていた。
前に訊いた時は「紫耀の邪魔をしたくない」と答えていたけど、
色々と抱えていた問題が解決して、安心して紫耀と一緒に暮らせるようになった今はどうなんやろう。
「なぁA、歌…やらへんのん?」
「んー…」
「ほら、色々落ち着いたやん?紫耀とも話し合って、2人でやってくってなったんやろ?
もう誰にも何にも振り回されんと、歌手の夢追ってもええんちゃうかなぁって…」
俺の我儘なんかな?
君の歌が好きやから、
歌う君が好きやから、
だから、俺は君の夢を諦めたくない。
でも君にとってそれは、想像以上にデリケートな問題やったみたいで、
「あのギター…13歳の誕生日にパパからもらったんだ。
まだパパとママの仲が良かった頃は、よく私が作った歌聴いて褒めてくれてたの。
どこかで期待してたのかなぁ…またあの頃の家族に戻れるんじゃないかって。
だから離婚してもう2度とあんな日々が戻って来ないってわかったら、なんか…ギター弾くのも歌うのも苦しくなっちゃって…」
君は小さな声でそう話すと、気持ちを落ち着かせるように僅かに震えた息を吐き出した。
「そっか…なんか、ごめん。
俺無神経やったかも…」
「ううん…気にかけてくれてありがとう。」
解決したとは言え、過去が消えたわけじゃない。
君が自分の生まれた背景や両親のことで傷つき苦しんだ事実は、君の心に強く根付いていて、
随所でこうしてまた疼き出すんやろう。
ゴホッゴホッ
また咳込み始める君。
「大丈夫?水飲む?」
「うん…ありがと…」
俺はいつだって探してる。
君の為に何ができるか。
「A…好き。」
「うん…私も好きだよ。」
「はよ元気になってな?」
「うん、ありがと。」
心も体も、君の全部が元気になりますように。
俺はベッドに入り、君の髪を撫でながら、眠りにつくのを見守った。
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作者名:P | 作成日時:2018年9月19日 22時