俺と彼奴とシンデレラ２ (ページ30)

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【紫耀】

「なぁ、A…」

もう歌はやらないの？

どうしたんだよ？

お前、昔からずっと宝物みたいにギター抱えてたじゃん。

「ん？何？」

いつだったかAが、パパがプレゼントしてくれたんだと、嬉しそうにギターを見せてくれたのを今でも鮮明に覚えている。

まだ背が低かったAが持つそのギターは、やたら大きく見えたことも。

それからは会う度にギターや歌の話をしてくれたっけ。

"パパとママがこの曲褒めてくれたの"

"今度ママの誕生日にパパと二人で曲作るんだ"

"パパが私の歌声とママの歌声がそっくりだって言うの"

…

そっか…

そうだった。

Aにとってこのギターは、

歌は、

両親と過ごす時間の中で生まれたものなんだ。

「紫耀…？」

父親の不倫、両親の不仲、母親の不倫、家庭放棄、学費や生活費のサポート拒否、出生背景の告知…そして離婚。

全て乗り越えはしたけど、きっとAの中でまだ消化はできていないんだ。

「あ…ごめん、何でもない。
そういえばA来週誕生日だろ？
なんか食べたい物とか欲しい物とか考えといて？」

「覚えててくれたんだ。うん、考えてみる。ありがと。」

「忘れるわけないだろ。あ、マジで行かないとヤバい。じゃあな！」

「うん、頑張ってね。」

時が解決してくれるのだろうか。

待っていれば、またAは夢を追い始めるのだろうか？

それとも、何かキッカケが…

また歌えるようになるキッカケが必要なのだろうか？

「キッカケ…か…」

マネージャーが運転する車に揺られながら、俺はポツリとそう呟いた。