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【紫耀】
"夏休みだし、ちょっと向こうに帰るね。"
そう言ってAがカナダへ行ってから、ちょうど一週間。
今日はやっと日本に戻ってくる日だ。
カレーを食べたあの日から、なぜかAは一人暮らしの話をしなくなって、
その数日後にカナダへ帰ると言い出したもんだから、てっきり俺が一人暮らしを反対したせいで日本での暮らしが嫌になってしまったのかと焦ったっけ。
Aがカナダへ行った後、一度だけ "楽しんでる?" と送ってみたけれど返信はまだない。
きっと友達と会ったり、久しぶりに両親と出かけたり食事したりなんかして忙しいんだろう。
返信がないのは、充実した時間を過ごしている証拠だ。
そう思っていた。
空港まで送って行った時、
"荷物も少ないし、時間も前後しちゃうと思うから迎えはいいよ。"
Aはそう言ったけれど、
心配なのと早く会いたいのとで、仕事が伸びなければ空港まで迎えに行こうと、今日はスタジオまで自分の車で来た。
なんとか予定通り仕事が終わり、Aから連絡が来ていないかと携帯を見ると、
珍しく父さんからの着信が残っていた。
「あ、父さん、ごめん電話出られなくて。
どうかした?」
「ああ、実は仕事があって日本に帰って来てるんだ。
これからちょっと会えないか?」
Aが携帯を持つようになってから、会う時はいつもAから連絡をもらっていたこともあり、
父さんが直接こんなふうに俺を誘ってくるなんて本当に久しぶりで、
てっきりAと同じ飛行機に乗って来たんだと思い込んだ俺は、
「うん、いいよ!」
何も疑うことなく、父さんの誘いを二つ返事で受け入れた。
父さんと会う時は、いつも楽しかった。
Aがいたから、楽しかった。
身勝手なことをした父さんに、強い嫌悪感を抱いた時期もあったけど、
それでもAには会いたくて、
俺は父さんとの繋がりを切れなかった。
そしてその嫌悪感をも忘れてしまうくらい、
Aがいる空間は、
Aと過ごす時間は、
とっておきのものだったんだ。
だから俺は、また三人であの時みたいな時間を過ごせると思い、一気に気持ちが高ぶった。
「紫耀、この後空いてる?」
廉からの珍しい誘いをも断って、
子供みたいに浮かれ気分で、くるくると車の鍵を回しながらスタジオを後にした。
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P(プロフ) - ふみなさん» ありがとうございます。励みになります。頑張りますので、引き続きよろしくお願い致します。 (2018年9月11日 21時) (レス) id: 6d17b4bef7 (このIDを非表示/違反報告)
ふみな(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!頑張ってください! (2018年9月11日 21時) (レス) id: 5163432d21 (このIDを非表示/違反報告)
P(プロフ) - ランタンさん» 有難いお言葉ありがとうございます。そう言って下さると本当に嬉しいです。引き続き頑張りますので、よろしくお願い致します。 (2018年8月4日 17時) (レス) id: 6d17b4bef7 (このIDを非表示/違反報告)
ランタン - あんまり廉くん主人公を読んだことがなかったです。でもこの物語とっても面白かったです。これからも更新頑張ってください! (2018年8月4日 13時) (レス) id: bdde880c20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:P | 作成日時:2018年8月2日 0時