俺と彼奴とシンデレラ

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【紫耀】





「なぁ、A…どうしたんだよ…
何をそんなに泣くことがあるんだよ…」








俺は考えていた。






いつまでも泣き止まないAの背中をさすりながら、








Aを苦しめる、ありとあらゆる可能性を。







成績が良くなかった。
失恋した。
虐められた。



そんな簡単なことしか思い浮かばなかったけど、






一つ、








俺がずっと恐れてきたことが、ふと頭によぎった。









「そういえばA、ちょっと前に『ママから電話があった』って言ってたよね？」







もしかして、








「…うん。」








もしかして、








「その時…何か…聞いたりした？」









知ってしまった？









Aの命が、不倫・離婚・再婚を経て誕生したこと。









「何かって何？」









知ってしまった？









「いや…別に…なんでもない。」









聞けない。









下手に聞いて、もし何も知らされていなかったら、



そしたら俺が事実を知るキッカケを作ってしまうことになる。









大丈夫。








きっと大丈夫。








Aはまだ何も知らない。







父親にしろ母親にしろ、わざわざ娘に不倫してできた子だなんて事実を伝えるはずがない。







日本の大学に進学することが決まった時、

"パパもママも応援してくれてる。"

Aはそう言っていた。

"学費も生活費もサポートしてくれる" と。






そんな両親が、今さら何を思って不倫や離婚の話をするんだ？








するわけない。








するわけがないんだ。









「変なこと言ってごめん。本当、なんでもないから。

あ、涙止まった？とりあえず一旦休憩！何か飲もう？俺取ってくる。」









隠し事をしてるのは俺の方なんだ。









ずっとずっと、隠してきた。









これからもずっとそう。









Aの為なら、俺は、ずっと嘘つきのままでいい。









キッチンには乱暴に置いたままのペットボトルがあって、





蓋をしようと手に取ったけど、








そのままグシャっと握り潰してしまう俺がいた。

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