17-8 〈鉢屋三郎の後日談〉 ページ24
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あの時抱き締めた感覚は、何故か今でも鮮明に覚えている。
私は1人の女に多いに遊ばれた。
……仕方がないだろう？誰だって土井先生に恋人がいるなんて夢にも思わないさ。(失礼)
しかも手を握られ接吻まで迫られたとくれば、焦る以外にどうしろというんだ？
ただそんな状態でも唯一考えられた事があった。『本物の土井先生に迷惑をかけてはいけない』という事だ。
だって万年独身の先生に恋人がいたんだぞ！？(超絶失礼)
私がここで下手な対応をして破局にしてしまったらどうなると思う？
怒られる？いや、そんな甘いもんじゃない。
確実に死ぬ。殺られる。
そう思ったら彼女を抱き締めていた。
彼女はピクリと反応をした。私はそれに釣られるように様子を伺ったが、顔は私の肩付近にあり表情が見えずよくわからなかった。
だが『見えない』というのは興味を唆るわけで、一体どんな顔をしているのかすごく気になってしまった。
私は彼女の顔を思い出し、様々な表情を想像した。天井裏から見るだけじゃわからなかった彼女の顔の詳細なパーツは、近くで見るとどれも整っており、バランス良く配置されていた。
その時、不意に勘右衛門の言葉が頭をよぎった。
「誰だって美人さんとは仲良くなりたいと思うだろ？」
その言葉を聞いた時はお前だけだよ！！と内心ツッコんだ気がするが、この時なら賛同していたかもしれない。
無意識に抱き締める腕に力が入った。
何故かはわからないが、彼女の表情を想像したら仲良くなりたいと思ったのだ。そして彼女は本当に土井先生と恋仲なのだろうか？と疑問が浮んだ。
もしそれが嘘であれば……はて、嘘であれば何だというのだろうか？
それを皮切りに私は悶々とする。
自分が何を考えているのかわからなくなった。どうしたら良いかもわからなくなった。
でも、この時間が続けばいいのにと思っている自分がいたことは紛れもない事実だった。
良い感じにまとめたがちょっと待て。
よく考えれば私の変装は即バレだったんだ。『偽物と思ったのは気のせいだった』的なことを言われ、先生の恋人だということを信じてしまったが即バレした時点でそれが嘘だとわかっただろう……！？
今更そんな事に気づくなんて悔しいなんてものじゃない。
……だが、心から悔しいと思うの反面、心のどこかでは騙されなかった彼女に嬉しさを抱いている。
あぁ、なんてすごく変な気持ちなのだろうか。
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