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「あ……Aさん、う、後ろ」
「ん?」
そんなシナの様子にいち早く気づいたのは乱太郎だった。焦った様子でAの後ろを指差す。
微かに震えるその指先を不審に思いながらAが振り返ると、そこには鬼の形相をしたシナが立っていた。
「初めまして、山本シナです」
「は、初めまして。
その様子にAは一瞬怯んだ。まあ誰だって背後に鬼がいればそうなるものだ。それでもちゃんと自己紹介できたAは偉い。とっても偉い。
だがシナはそう思っていなかった。
「私、夕飯時って伝言頼んだと思うのですが?」
シナは自分より先に一年生に話しかけた事に怒って……否嫉妬していた。
誰よりもAに会える事を楽しみにしていたのは私なのに。
鬼の形相は、そんな悲しさと生徒に嫉妬するなんてみっともないという思いがごっちゃになった結果である。
しかしそれにAが気づくことはなかった。Aはシナが怒ると怖いと案内中に教えてもらっていたのである。それに自分のせいで一年生達が怖がっていると感じていた。
ここは潔く謝るのが吉だろう。
「はい、仰る通りです。遅れてしまい申し訳ありませんでした……」
Aはその場で正座した。そして深々と頭を下げた。
プライド?そんなの可愛い子供達を恐怖から救うためなら捨ててやるわ!!というAの心の声が聞こえた。
シナはそれを見てハッとした。
私は初対面の相手に何をしているのだろうか。これから仲良くなろうと思っていたのに第一印象が最悪じゃないか。
「あ、頭を上げて!私も大人気なかったわ……ごめんなさい」
「いやいや遅刻した私が悪いです」
「そんなことないわ!私だって早く着き過ぎちゃったのよ」
いや私が。いいえ私こそ。
Aとシナは互いに自身が悪いと誤り続けた。そしてぷっとどちらかの笑い声が漏れると、漸く周囲の雰囲気が明るくなった。
「ねぇ、お互いが悪かったということでもうやめましょう?」
「そうですね。じゃあ改めまして、鶴町Aです」
「山本シナです。同性の同僚は初めてで、Aちゃんが来てくれて本当に嬉しいの!タメ口で構わないわ!」
「わかった。よろしくね、シナちゃん」
「ええ!こちらこそよろしくね」
2人は硬い握手を交わした。友情が芽生えた瞬間である。
一方、鬼の形相が綺麗さっぱりなくなりいつもの美しい笑顔に戻ったシナを見て一年生3人は胸を撫で下ろした。
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