9 ページ10
「僕主が思ってるより主のこと好きだからね」
髭切が確かに言ったこの言葉が彼女の頭にこびりついて離れない。
まさか髭切にそんなことを言われるとは思っていなかった彼女は、髭切の言う「好き」が恋愛としての「好き」なのか、それとも主としての「好き」なのか分からなかったが、それでも彼女の頭の中ではずっと髭切のあの言葉が壊れたラジオのように延々とループしている。
「す、好きってきっと主としての私を好きってことだよね....?」
自分に言い聞かせるようにして独り言にしては大きな声で言った。
もう寝ないと体に毒だと思い、彼女は布団をかぶって目を閉じる。
しかしそこでも思い出すのは髭切のこと。
頭の中で羊を何十匹と数えてみても、テレビの話題など関係の無いことを考えてみても、明日の朝ごはんのことを考えてみても、どうしても彼女の頭には髭切が浮かんでしまう。変に髭切を意識してしまっても良くないと思った彼女は考えないようにしよう、考えないようにしようと自分に言い聞かせながら彼女は眠りについた。
.
「──主、朝です」
声が聞こえてゆっくりと目を開くと蜻蛉切が彼女の枕元で正座していた。
蜻蛉切は「おはようございます」と深々と頭を下げると朝食のメニューを教えてくれた。白米にワカメと豆腐の味噌汁など、ごくごく普通のメニューだ。
だが、それがすごく安心する。
「主、お身体の調子はいかがですか。よく眠っていらしたので慣れない環境でお疲れになってないでしょうか」
「変わりはないです。ありがとう、心配してくれて」
「いいえ、滅相もございません。自分は、主の調子が良いのならそれで良いのです」
蜻蛉切は着替え終わったら居間に来るように伝えると部屋をあとにした。
寝巻きから和服に着替えると、洗面所のに寄って歯を磨いたり、顔を洗ったりしてから居間に向かう。居間に向かう廊下では朝食のいい匂いが鼻をくすぐり、思わず顔がほころぶ。
居間の戸を開けると刀剣男士達が「おはよう」と挨拶をしてくれた。
前は当たり前だと思っていたことが、自分の最期が近いとわかった今では凄く尊くてありがたくて、愛おしいものだったのだと実感した。
22人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:いてぃごん | 作成日時:2019年2月12日 0時