彼とのキス ページ16
「A？」
メイク室に入れば
聞きなれた声が聞こえた。
「おはようございます。」
「おはよ。
あの後大丈夫だった？」
そう言うと目の前の辰哉は
優しい顔で笑った。
「うん。大丈夫だったよ。」
そっか、と言うと
辰哉は私の前の椅子に腰かける。
「今日はAがメイク。
してくれるんだよね？」
いつもいる蓮は今日は別仕事で
建物は同じだけどスタジオが違うから
助け舟を出してくれる人はいない。
「うん。目、閉じてもらっていい？」
そう言うと辰哉は
静かに目を閉じた。
変に意識せずに。
この前のことは思い出さないように。
そう思えば思うほど
息が詰まるような、、
「A？」
「へっ！？」
「何回も呼んだのに
全然こっち見ないから。」
そう言う辰哉は私のことを
覗き込んでいて。
視線がぶつかった時に
お互いの距離があまりに近いことを自覚する。
「ごめん、大「A」
そう言って辰哉は私の両手首を掴むと
その手を慣れた手つきで上にあげれば
近くの壁へと押し付けた。
「た、、つや？」
「、、、俺、別れたよ」
「え？」
「やっぱ俺Aのこと
好きなんだよ。」
忘れられない。
そう言った辰哉の瞳は
あの頃のように私を見ていて。
その言葉が嘘ではないと
嫌でもわかってしまう自分が
とても嫌だ。
「Aは好きなやつ、、いんの？」
「、、、分かんない」
「分かんないってことは
いるんだ、気になるヤツが」
そう言われて何も言えずに黙るしかない。
少し腕を動かそうとするけど
辰哉の強い力には到底敵わない。
「、、目黒とは言わないよな？」
そう言われて瞳がグラッと揺れる。
私は蓮が好きなの？
ううん。
蓮はただの【ペット】だもん。
お互いがメリットだけで成り立ってる
契約上の仲なだけ。
、、、そう思ってたけど。
辰哉に言われて自分の気持ちが
グラグラ揺れてることに自分でも動揺する。
「、、目黒には渡さない」
そう辰哉が呟けば
気付けば唇に何かが触れた。
「なにしてんの？」
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作者名：あやぴ
| 作成日時：2021年9月7日 3時
