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月曜日のねじまき鳥【上】 ページ1




 私の一日は私を殺すことから始まる。鏡の中の自分と会話をして、意図的に唇の端を上げるのだ。最初は歪だった形も表情筋エクササイズをするうちにいくらかマシなものになる。そうしてやっと人と会話できる顔になると、家族に挨拶をしてテーブルにつく。
 この習慣は私が小学五年生になった始めの頃から続いている。きっかけはあまり記憶していないが、ふと心に残る印象的な感情がフラッシュバックのごとく展開されるのだ。幼少期から少しずつ蓄積したストレスを身体が覚えているのかもしれない。

 準備が終わると「行ってきます」もそこそこに履きなれないローファーの踵を引きずって玄関を出た。空の色がめっきり春めいており、晴れたまま潤んで青く溶けている。私はその空を肺一杯に吸い込んで、始まりの一歩を踏み出した。
 
××

 中学校の入学式はあっという間に終わった。退場すると先生に無理やり教室に押し込められた。周りは私と同じ制服を着ているのに、なんだか違和感がある。みんなそれぞれに座っていて、周囲に薄い膜を張っている。
 先生が教室に入ってきてホームルームの始まりを告げる。この新しい世界で生きていけるのかと、私はこっそり息を吐いた。

 突然だが、私は小学生時代の自分を捨てるためにいわゆる受験をした。結果は合格であった為、心底安堵したのだが、その感情はもはや消え失せてしまっている。新しい人と新しい関係を作ることは面倒くさい。なにより最初にボロを見せてはそのあとの学生生活において多大なる影響を及ぼすからだ。そこのあたりを考えずに良い面だけを見て行動してしまうところは昔から考えものである。

「では、自己紹介でもしましょうか」

 思考の海に沈んでいた意識が引き上げられる。教壇に立っている年配の女性教師がこれまた嘘くさい笑みを浮かべていた。雰囲気からベテランさんの雰囲気が漂っているけれど、こういう人こそ油断ならない。昔からのお堅い教育論を自分の物差しで振りかざすのだから。こっちが意見を主張しないとそんなんじゃダメですよなんて、子供だからってバカにしないで欲しい。私だって生まれた時から紆余曲折を経て、そうしないといけないという結論に至ったのだ。

 私の苗字はカ行であるので比較的早い位置になる。このクラスだと三番目だ。一番と二番の自己紹介の様子を伺ってから適当にそれに沿う形で話せば大丈夫だろう。
 一番が椅子を引いて立ち上がった。廊下側の一番前に位置する席にみんなの瞳が集中する。


月曜日のねじまき鳥【中】→



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九条あや(プロフ) - のばらさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) 次回作も頑張りますね! (2019年1月16日 22時) (レス) id: 32ff1c1e1c (このIDを非表示/違反報告)
のばら(プロフ) - 上手いことは言えないのですが、凄く面白かったです! (2019年1月16日 21時) (レス) id: 6840145f54 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:九条あや | 作成日時:2019年1月5日 17時

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