第43話 ページ10
【 Aside 】
「お兄ちゃん!ありがとう!」
「何とお礼を言ったらどうか...」
次々と聞こえてくる賞賛の声に俺は思わず苦笑した。俺は影で動いただけで、表舞台は優やシノアの役目だったからだ。礼を言われるのは俺ではなく、今現在も吸血鬼と戦っている優やシノア達の筈だ。
「無事に帰って来いよ...」
人質を救出してから数十分経っただろうか。そろそろ優達が戻ってきてもおかしくはない時間だ。苦戦しているのだとしたら今すぐにでも駆け付けに行きたいが、そうするにはいかない。ここにいる数十人の人質を置いてはいけないからだ。
そんな事を不安に思いながら地下鉄の入り口の方を見る。剣戟の声でも響いてきたのなら少しは安堵出来るのだろうが、辺りからは強風の吹き荒れる音のみが聞こえ、不安な気持ちをより一層強めた。
「きゃッ...」
ふと聞こえた少女の声に俺はハッと我に帰った。どうやら、母親に駆け寄ろうとして小石に躓いたらしい。
「大丈夫か?」
俺はそっと少女の側に寄り、その場でしゃがんだ。膝や肘を所々擦り剥いてしまっている。深い傷口からは血も少量流れていた。
「...血」
ふと橋に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。俺は半分人間で、もう半分は吸血鬼だと契約時に言われた言葉だ。それが脳裏に焼き付いてしまった所為だろうか、何故か少しずつ流れていく血に俺は目が離せなかった。
「お、お兄ちゃん...?」
少女は怪訝な表情で俺を見上げる。俺の身体は意思と反するように身体が熱を持ち始め、動機が激しくなる。喉もじわりと乾き始め、全身から冷や汗が大量に流れ出た。
今すぐにでも少女の首筋に齧り付いて体内に流れている血を飲み干してしまいたい、と俺の本能が言っている。
「くそッ...」
俺は出来る限りの力を振り絞ってその場を離れた。そして、近くの瓦礫に身を寄せ深く深呼吸をした。
「まさか本当に...」
力の抜けた手を地面に置くとぴちゃりと水が軽く弾ける音がした。水溜りだ。どうやらこの辺り一面水捌けの悪い質の地面らしい。俺は核心をつくため、水溜りを覗き込んだ。
「...赤い」
そう、俺の瞳はまるで吸血鬼の様に赤く染まっていたのだ。
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yuukyan(プロフ) - 早く続きが見たぁーい!!! (2020年1月21日 10時) (レス) id: b5dcd30fc2 (このIDを非表示/違反報告)
あ - 速く続き (2019年5月30日 20時) (レス) id: 9b4517b80c (このIDを非表示/違反報告)
、 - オリジナルフラグ外して下さい (2018年2月7日 7時) (レス) id: a495531ba2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:変なおっさん x他1人 | 作成日時:2018年2月7日 3時