4．カップルのような ページ5
鈴芽side
伏し目がちな目に灯る悲しげな色共に言葉を紡ぐAさんはそれはそれは綺麗で。
草太さんも、最初は真面目に聞いていたのに、今じゃAさんに見惚れている。
って、そんなことより。
やっぱり私が要石を抜いたせいで、たくさんの人に迷惑をかけているんだ。
鈴芽「早く、神戸に行かないと…」
A「え、神戸？」
草太「ダイジンがそこにいるんだ。」
A「え、大臣？」
草太「要石が姿を猫に変えて逃げているんだ。各地の扉を開けながら。」
A「へー…はぁ⁈ え、要石って動けるの⁉
てか、草太は何で椅子なワケ⁉」
今まであったことを、Aさんに説明した。
その間も、私たちは時々ヒッチハイクを試みた。
だけど、こんな山奥を通る車は少ないはずで、
道路に溜まった水を跳ねさせながら通り過ぎていく。
鈴芽「やっぱり来ないかぁ…」
大分諦め始めた私の後ろで、Aさんが呆れたように話す。
A「君たちはなんて無謀なことをしているんだ…」
草太「仕方ないだろ。これ以外進む方法がないんだから。」
A「いや、あんな少女を車に乗せるやつって、危ないでしょ。」
草太「偏見だな。」
A「黙れ椅子。」
まるでカップルのような痴話喧嘩を始める二人。
と、一台の車が目の前を通り過ぎた。
戻ってきてくれないかな、なんて思っていたら、本当にバックする音がした。
バス停から身を乗り出そうとする子供椅子を慌てて抱え、
Aさんと顔を合わせる。
青いミニバンがハザードランプを点滅させながら止まった。
雨と私たちを映したサイドウィンドウが、小さな音を立ててすーっと下がっていく。
「あんたら、どこまで行くん？」
運転席から声をかける女性はさらにこう続けた。
「そんなとこに座ってたって、バスなんか来おへんよ」
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