3.恋心を。 ページ4
Aside
私が戸締まりの旅を始めた発端は、ほかでもない、草太の失踪。
閉じ師の仕事上、たまに長く家を空けることがある。
でも、そういう時は大体私に連絡が入っていて、心配はするけど、不安ではなかった。
A「_あの日まではね、追いかけようとも思わなかったんだけど。」
鈴芽「…あの日?」
A「草太が九州に出発して、数日した時。
私の家が火事になった。」
私の家はお祖母ちゃんが残したもので、古文書がある蔵もあった。
大学から帰ってきたら、すでに家は燃えてた。蔵だけは、無事だった。
火事の原因は、本当なら数分で終わってしまうような小さな山火事と、小さな地震。
家の敷地に裏山があって、ちょっとだけ険しいところで、
子供の時から大人皆に登るなって言われてた。
そこにあった木とかが燃えて、初めて知ったんだ。
草太「っまさか、」
A「うん。_扉が、そこにあった。」
山のてっぺんにあって、登らないとわからない場所だった。
でも、その扉は締まってて、ミミズは出てこないはずだった。
なんだか、いやな予感がした。
草太が、危ないんじゃないかって。
昔、草太のおじいちゃんから聞いたことがあったんだ。
「要石が片方抜けているとき、片方の近くで、小さな地震が良く起きるようになる。」
草太が、宮崎には要石があるって聞いてたから。
もし、それが本当なら、大変なことになる。
ずっと昔の大地震も、きっかけは要石が一つ抜けることだったから。
A「だから。ここまで来たの。戸締まりしながら。」
でも。
私がここまでやってきたのは、怖かったから。
草太が、どこかにそのまま行ってしまうんじゃないかって思ってしまったから。
名目上の婚約を、彼は受け入れていない。
きっと、私のことは、ただの幼馴染で、それ以上でもそれ以下でもない。
だけど、私は持った。持ってしまったのだ。いけないことだと分かっていながら。
彼に、恋心を。
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ