1．人の心の奥まで見透かして。 ページ2
鈴芽side
草太さんを人間に戻すために、ダイジンを追いかけてやってきた愛媛。
草太「バスで行けないだろうか」
空を見上げて困り果てた声でそう言う草太さん(椅子)。
鈴芽「…六時間後だよ、次のバス。」
壁に貼られた色あせた時刻表を見る。
すると、壁の向こう側が見えた。
見たくなかった、でも、見るべきだった。
少し遠くから、また「ミミズ」が空へ登って行っていた。
鈴芽「草太さん！あれ、ミミズ！」
草太「嘘だろう…この土地の扉は閉じたはずなのに！」
鈴芽「とにかく、行かないと！」
私は草太さんを抱え、薄暗い小さなバス停小屋から飛び出した。
外は雨が降っていて、せっかく千果にもらった服が濡れて、
重くなっていくのが分かった。
その場所は、古びた図書館だった。
ミミズはその中から溢れている。
隙間を見つけて中に入ると、背の高い本棚が多く立ち並び、
たくさんの本が詰まっていた。
扉は、一番奥にあった。
そこにはすでにダイジンがいて、楽しそうに笑っている。
早く締めないと、そう思い扉を見た。
そこには、
「こっのぉ…」
女の人が、扉を閉めようとしていた。
だけどそのか細い腕ではミミズの力に勝てるはずもなく、吹き飛ばされてしまう。
女の人は棚にぶつかり、その拍子に本が落ちていく。
草太「まさか、あの人＿っ鈴芽さん！扉を！」
鈴芽「うんっ！」
ぐっと体全体に力を込めて、必死で扉を閉める。
不幸中の幸いというべきか、ミミズはまだあまり出てきていなかった。
そして、パタンっ、と扉が閉まった。
鍵を構えて、すっと目を閉じる。
浮かぶのは人々の楽しげな顔。
耳に届くのは小さくはしゃぐ子供たちの声。
たくさんの人々がここで学び、新しい知識を得る喜びを知ったのだろう。
草太「かけまくしもかしこき日不見の神よ。
遠つ御祖の産土よ。
久しく拝領つかまつったこの山河、
かしこみかしこみ、謹んで…」
鈴芽「お返しします！」
声とともに鍵を回す。
ミミズも、あの甘い匂いもしなくなっていった。
扉が閉まったことによる喜びか、はたまた人が来ない悲しみか、この場所にだけ雨が降った。
安心して息をつく。
「う…」
突然人のうめき声が聞こえ、体がびくりと反応する。
そうだった、女の人が吹き飛ばされて…
慌てて駆け寄ると、その人はもう目を覚ましているようだった。
ゆっくりと瞬きを繰り返し、私に焦点を合わせる。
目が合った。
人の心の奥まで見透かしてしまうような目だった。
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