【呪術廻戦】高専辞めたら先輩病んでた【男主】 (ページ35)

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三十五歩ページ35

「みぃつけた」

そう言った男の声に聞き覚えがあった。

いや、忘れられない声だ。

でも、信じられなくて、信じたくなくて、
その思考を破棄し、俺はドアから離れる。

「やっと会えたね」

男はそう言いながら、
乱暴にドアを開けた。

ガァンッとドアノブが、
壁にぶつかった音が響く。

煩い、と隣人に怒られないかな、なんて、
今は気にしてられない。

危ない。

とにかくここから逃げたい。

俺は身の危険を感じて、
鍵付きであるトイレに走る。

「なぁに、かくれんぼ？」

余裕のある声。

楽しんでいる声。

その声に身体が震えた。

嫌だ、嫌だと心が叫ぶ。

俺はトイレのドアを開け、

中に入った。

『はっ…』

少しホッとした。

ここなら、大丈夫だ。

鍵を閉めれば___

だが、それもつかの間。

トイレのドアは閉めれなかった。

ガッと黒い足が入り込み、
入口から目隠しした顔が現れる。

口元は弧を描いていた。

「やっと会えたんだから、

再会を楽しもうよ」

パタンっとトイレのドアが閉まる。

入ってきた男はそう笑うと、
後ろ手で鍵を閉めた。

カチャッ、

その音がやけに大きく聞こえる。

よりにもよって、
逃げ場のない狭い空間で、
二人きりになってしまった。

これなら、まださっきの場所の方が良かった。

もしかしたら夏油先輩が__

とか、そんな風に後悔しても遅い。

「……＂俺＂から逃げれると思ってんの」

『ッ…！？』

懐かしい口調。

聞きたくなかった。

彼はさっきとは全然違う声でそう言うと、
バッグを持つ俺の手を掴む。

びくり、と大きく身体が揺れた。

怖い。

何故か、カタカタと手が震える。

高専にいた時とは明らかに変わってしまった。

どうして、こんなに怖いんだろう。

「震えちゃって、可愛いね」

『は？』

俺の手をぎゅっと掴み、
ぐっと顔を近づけてそう言った。

何を、言っているんだ？

今、なんて言った？

意味がわからない。

そう一人混乱していると、
ふわりと甘い香りがした。

そして、あたたかい。

彼は、目の前の男は、
俺の手を引っ張ると抱きしめたのだった。

大きな身体が、すっぽりと俺を覆う。

行き場のない手は、
ただ空を掴む。

耳元で、

「はぁ」と甘ったるい声が聞こえた。