あのマフラー ページ39
フゥ、と息を吐いてダンボールを開いた
ゆっくり、ゆっくり、慎重に
中学3年生の時からずっと部屋の隅においてあったダンボール
ずっとサムのだろうと思ってたけど、本当は俺のものだったらしい
インハイが終わって家に帰れば、不安そうな顔をした母さんとその横でプリンを食べる治
母「Aちゃんのためにも、区切り、つけようか
部屋の隅にあるダンボールあるやろ、ちょっと小さめのやつ
あれ侑のやから。気持ち落ち着いたら開いてみ。」
正直、落ち着くわけが無い
1ミリも思い出すことは出来ないし、懐かしさに浸ることも無い
ただ、めちゃくちゃ悲しい
ゆっくり開くと、中には手紙やスポーツタオルなどがたくさん入っている
侑「…マフラーと、…ノート？」
黒をベースにしたもこもこのマフラー
まだ1回も使ってないのか、綺麗にタグまでついてある
ゆっくりとノートを開いて、表紙を見つめた
侑「…日記？」
小さな丸文字で綴られた文字
ペラ、と１ページめくった
侑「ぶっ、なんこの絵！」
不細工な男女が2人、手を繋いだ絵に思わず吹いてしまう
なんなんだ一体、画伯にも程がある
絶対俺の方が上手いで、なんて笑いを堪えながらもう１ページめくった
〇月×日
今日はクリスマスのためにケーキ作る練習しました！
お母さんとめちゃくちゃ頑張ったけど砂糖と塩間違えちゃった！
本番は頑張る！喜んでくれるといいな〜！
侑「……なん、これ」
〇月×日
侑と喧嘩した、あと少しで1年なのに。
私と侑、似てるからお互い絶対謝らないし悪いと思ってないからいっつも長引いちゃうんだよね。
仕方ないから今回は私がお姉さんになります………
でも私絶対悪くない！
ペラペラ、1枚1枚捲る
いつの間にかボロボロと涙が溢れていて、ノートに染みを作っていく
12月25日
その最後のページは、何も書かれていないまっさらな空白のページだった
侑「…A」
ギュッ、とノートを握る
あのマフラー、早めに貰ったけど一番最初につけるのはクリスマスがいいから使わずに取っておいたんやったっけ
料理好きなくせに、俺よりポンコツでよく失敗作食わされてたな
侑「1人にして、ごめんな…」
ノートを持って、マフラーを巻いて
ガチャン、とドアを開けた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 117人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イオリ | 作成日時：2020年8月12日 23時
