おさむくんと私 ページ36
治「おはよ、Aちゃん」
「…おはよ」
倫を振って1週間、さすがにお母さんを心配させる訳には行かなくて重たい足取りで学校に向かった
カタン、と椅子を引いて席に着けば机に影が落ちる
ゆっくりと顔をあげれば、そこには治くんがいた
治「久しぶりやな、元気しとった？」
「うん、してたよ」
治「そお？顔色悪いけど」
「体調崩してたからかなあ」
治「ふーん、角名のこと振ったん？」
「うん……うん？」
どさくさに紛れてなんてこと聞いてんだこの人は
治「なんで？」
「なんでって言われても…倫の好きと私の好きは違うから、付き合うの申し訳ないじゃん」
治「それだけやないやろ」
「…何、言ってんの」
治「まだ好きなんやろ、侑のこと」
ジッと私を見つめるその目が、何もかも見透かされてるみたいで気持ちが悪い
改めて思う、ほんとに侑とそっくりだな
「冗談、きついよ」
治「冗談ちゃうけどな」
「寝言は寝て言いなよ」
治「なんか辛辣やない？」
「もう、やめたの。人を好きになれないの、
いつまで経ってもあの時の私が縛り付けてる」
好きなんかじゃない、一種の呪いだ
人を傷つけておいて、侑を事故に合わせておいて、何がまだ好きだ
そんな権利、私には無い
治「…母さんと侑とな、Aちゃんの話してん」
「え、」
治「母さんがAちゃんから貰ったプレゼントとか手紙とかをひとつのダンボールにまとめて、部屋の隅に置いてたんよ。いつか思い出した時が来たら、後悔しないようにってな。
それをな、インハイ終わったあと侑に開けるように言った」
「…なんで、」
治「もういい加減、このままじゃダメやんか。
これで思い出せんかったらしゃあないけど、ずっとこのままじゃ進むもんも進まんし、Aちゃんも苦しいばっかりやからな。」
やからあんまり、自分を思い詰めんでええんよってポンポンと優しく頭に手のひらが乗った
その言葉にじんわりと涙が浮かぶ
治「侑も侑で、色々考えてるみたいやから。まだ開けてないけど、落ち着くまで待ってあげてな」
「…ごめん、」
治「謝らんで」
角名「治、移動教室」
治「ん、今行くわ」
準備してくる、と教室に戻った治がいなくなって私と倫の2人きりになる
角名「…言ってなかったこと、言ってもいい？」
「…なに？」
角名「好きにさせてくれて、ありがとね」
ちゃんと幸せになりなよ、なんて
その言葉に一気に涙がこぼれ落ちた
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作者名：イオリ | 作成日時：2020年8月12日 23時
