すこしちがう ページ35
「やめます」
堺「えっ」
今までありがとうございました、といまさっき渡された給料をカバンに閉まって一礼した
堺「ちょ、まま、待って！優奈のこと待たないの？！」
「はい、待つ必要が無くなったので。」
堺「え、」
ガシッと掴まれた手をじっと見つめて、前に突き出す
「用が済んだなら腕離してください」
堺「い、嫌だ！」
「は？」
堺「俺、Aちゃんのこと＿＿＿＿＿＿」
キュッと手を握られて、ゆっくり口許に手が近づけられる
角名「人の彼女に何してんの」
「り、ん…」
堺「おまえ…！」
手の甲にキスを落とされそうだった所を倫が堺さんの手を抓ってくれた
なんで、いるんだろうか
「…堺さん、優奈さんのことまだ好きですよね」
堺「え」
「違ったら申し訳ないんですけど、セクハラも優奈さんがより戻してあげるからって条件付きでやってたんじゃないですか？」
堺「…」
「……きもちわる、」
ありがとうございました、と軽く頭を下げて店を飛び出す
堺さんは追いかけてこなかった
＿＿＿＿＿＿＿
角名「ん」
「…ありがと」
角名「いーえ」
俺小さい時からずっと好きだったんだよね、このジュース
振るとゼリーになるやつ、グレープが王道だけど
そう言って軽く缶を振り始めた倫の手元を見つめた
あの日から約1ヶ月ほど
無事に夏休みが明けて、あの噂が回ってたらどうしようって1週間くらい怖くて学校に行けていない
角名「隈、すごいんだけど。寝れてない？」
「…すこし」
角名「だめじゃん、ちゃんと寝なきゃ」
「うん、」
夏も終盤でジリジリと暑さが残る夕方
赤い夕焼けが、じんわりと視界に広がった
「……倫、」
角名「ん？」
「倫のこと、好きだよ」
角名「うん」
「…でも、私の好きと倫の好きは違ったみたい」
しんどい時、初めて学校に来た時、嬉しい時、全部そばにいてくれたのは紛れもない今も隣にいてくれている倫だった
だから、余計、この関係を崩すのが怖い
角名「…あー、くやしいな。まあ分かってたけど」
「え？」
角名「A、侑見る時いっつも悲しそうな顔するんだもん」
まだ好きなんだよね、侑のこと
「…好きじゃないよ」
好きじゃない、好きでいてはいけない
本心を突かれて、酷く体温が冷めた気がした
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作者名：イオリ | 作成日時：2020年8月12日 23時
