田中先輩と翔太。 (ページ3)

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『はや』

あまりにも速くて先輩のブレザーを掴んでいた手の力が強まる。

バイクに10分ほど揺られていると、

｢ついた～｣

と前の方から聞こえた。

目の前に広がるのは少し高そうなマンション。

『ここは？』

と私が聞くと

｢俺ん家｣

と先輩が言った。

『一人暮らしですか？』

｢うん｣

私も一人暮らしだけど、

一人暮らしには高すぎるような気がする。

先輩はバイクを止めて、エントランスへと向かう。

私はそれについていった。

部屋番号を押して鍵を開けて、エレベーターに乗る。

③のボタンを押す。

終始無言だけど、別に気まづくはなかった。こんなことは初めてな気がする。

エレベーターのドアが開いて、降りて歩く。すると先輩はひとつの部屋の前で止まった。

"303"の部屋の前に。

先輩が鍵を開けて扉を開けると中からは甘い匂いがした。

まるで男の人の部屋とは思えない匂いがして、私は玄関に入る前に立ち止まった。

数秒間止まっていると先輩に背中を押されて部屋の中へと入った。

『っ、お邪魔します』

目の前に見えたのは黒と白で統一されている部屋。

(…綺麗。)

うっかり見とれていると、

｢着いてきたんだね笑｣

と笑いながらからかうような先輩の声が後ろから聞こえた。

『、え、』

確かにそうだ。

バイクを降りてからは強制的じゃなくて自分の意思で着いてきた。

今考えれば逃げることだってできたはずなのに。

多分私は自分が必要とされた事が嬉しかったから着いてきた。

たとえ、先輩でも。

たとえ、こんな理由でも。

『セフレ、なってもいいですよ。』

私は玄関でそう先輩に告げた。

本音は少し違う。

"なってもいい"

というより

"必要してくれる人が居なくなるのが嫌だ"

かもしれない。

｢なに、その上から目線。笑｣

と先輩が笑いながら言う。

｢じゃあ、ヤろっか。｣

なんてムードのない先輩の言葉で私達は靴を脱いで、真っ直ぐベッドへと向かった。