甘酸っぱい後輩くん。 (ページ11)

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散らかっていた本たちも大分減ってきて、図書室が広く感じた。

「伊野尾くん、この本そっち……ひゃっ！」

たった1冊の文庫本。

それを、伊野尾くんに届けようとした

まだ下に本が積まれていたことなんて知らなくて、ちょっとした覚悟で前に倒れ込む。

慧「A！！」

目を瞑ったのと同時にふわっと私を包み込んだ良い香り。

これって伊野尾くんの匂い……？
香水とか、そんな洒落たものじゃなくて、

なんなんだろう？

知ったことのない香りだった。

慧「わぁ、A先輩って意外とちっちゃいんすね！」

その一言で抱きかかえられていたことに気付く。

一番近くで感じる、伊野尾くんの鼓動。
同じように、どきどきしている。

「おっちょこちょいすぎるよね、ごめんね……」

慧「……大丈夫だよ、可愛いじゃん」

その"可愛い"はおっちょこちょいな所…っていう意味だよね。

.

慧「帰ろっか」

少し切なさそうに、寂しそうに微笑みながら言ったその声は静寂のなか、そっと響いた。

ぽすっと最後の本を綺麗に戻して図書室をあとにした。