今こそ、問いたい。 ページ35
- 風吾 -
病院に戻ると、Aの病室が騒がしかった。
俺は焦りを隠せず、病室の前に待機している看護師さんに慌てて声を掛けた。
「Aに何かっ...!?」
「お兄さん、落ち着いて下さい。少し妹さんの様子が収まるまではここで待機していて頂けますか?」
「Aに何があったんですか!?アイツは元々体が弱いんです...体調は...」
「体調には問題ありませんよ。何か見えてしまったようで...幻覚だと思います」
俺はそれを聞いて安堵する反面、不安になった。
体には問題が無くても、精神は不安定な状態。果たしてAは以前の様に戻るのか...ビジョンが見えない。
やっと水世がAと向き合おうとしてくれたのに、何故会わせてあげられないんだろうか。
Aが苦しんでるのに、俺はどうして何もできないんだろうか。
なんて無力なんだ、俺は。
「...お兄さん、今日はお帰りになってゆっくりお休みして下さい。高槻さんの事は、私達にお任せ願えますか?」
看護師さんが安心させる様に俺にそう声をかけた。
おそらく、今日はもうAには誰も会わせることが出来ないと判断したんだろう。
確かに、今俺がAに会ったところでどう声を掛けてやったらいいのか、全く思いつかない。
「...分かりました。これ、着替えです。
...Aを、よろしくお願いします。」
俺はそれだけ看護師さんに言うと、Aの病室に背を向けて帰路についた。
・
自宅に着くと、電気がついていた。水世が帰ってきているんだろう。
「ただいま」
「お帰りお兄ちゃん」
俺がリビングに繋がる扉を開けると、その先にはダイニングテーブルに座った水世が俺を出迎えた。
そして、俺に少し時間を欲しいと言った。
多分、水世はAの事を聞いてくるだろう。しかし、水世に俺はAの事をなんて説明したらいいか分からない。彼女を傷付けずに、どうしたら...
「Aの事を、教えて欲しいの」
案の定、水世の口から出たのはAの名前だった。
しかし、俺の先程の心配とは裏腹に水世は宝石の様な檸檬色の瞳で俺をしっかりと捉えていた。
その目には『何を言われても受け入れる』という覚悟が確かに宿っていた。
水世は、長年の歪みと向き合う事を決めた。
________俺も、逃げてばかりは居られない。
「...分かった」
今こそ、未来の見える彼に問いたい。
_______これは、俺達にとって最前の未来か。
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綺世(プロフ) - お抹茶。さん» コメントありがとうございます!素敵な作品と言っていただけてとても嬉しいです。モチベーション上がります⤴︎まだまだ完結まで時間がかかりそうですが、最後まで見届けて頂けたら幸いです! (2021年12月25日 1時) (レス) @page38 id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
お抹茶。(プロフ) - コメント失礼します。素敵な作品に出会えて嬉しいです!私が夢主ちゃんの立場だったら水世ちゃんの事今更何だろうって思っちゃいますね...。これからどんな展開になっていくのか凄く気になります!応援しています! (2021年12月24日 8時) (レス) @page37 id: 58d51f3323 (このIDを非表示/違反報告)
綺世(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!読んでいただけて光栄です。どのような結末になるのか、最後まで見届けて頂けたら幸いです。 (2021年12月21日 22時) (レス) id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
白雪 - コメント失礼します。とても私好みの展開で一気に読んでしまいました。個人的には夢主は今まですごく辛い思いしてきたので、水世ちゃんが謝罪して元通り…………はならない気がしますね。何かもうひと波乱あって逆の立場になりそうこの姉妹。 (2021年12月20日 18時) (レス) @page23 id: 567a821487 (このIDを非表示/違反報告)
綺世(プロフ) - ばぐさん» コメントありがとうございます。作品、拝読させて頂いています…コメントを見た時に驚いてしまいました…!!どうぞ最後まで見届けて頂けたら幸いです。 (2021年12月20日 3時) (レス) id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:綺世 | 作成日時:2021年11月2日 17時