10話目 ページ11
「明日冷さんのとこに遊びに行くことになったわ！」
「ふえ、ほんほひ？」
「えぇ、本当よ！」
語尾に音符でも着きそうなくらいご機嫌な母上は、素晴らしい吉報を送ってくださった。
もぐもぐと口を動かしながら、母上の至極の手料理を飲み込む。
いつもはお手伝いさんのご飯なので、母の手料理を食べるのも久しぶりなのだ。
やべえ。いつも思うがうますぎる。話の流れもこの料理も。
「ありがとう！おかあさん！」
「いいのよいいのよ！Aちゃんの為だもの！私も冷に会いたかったし」
「ボクも一緒に行ってもいい……？」
「ごめんね永。永は学校があるでしょう？」
「うん……でも、いっしょにいきたかった」
箸を止め、ショボーンという効果音が聞こえそうなくらい落ち込む永兄さん。
兄は頭が良いので土曜日まで授業がある学校に通っている。
そんなに轟少年と遊びたかったのか兄よ。
「またこんどいっしょにいこ！」
「ダメだよ……もしAに何かあったらっておもったらボク……」
心配するとこそこかよ。
「まぁまぁ。永は本当に癒夢ちゃんが大好きなのね」
「……うん！Aはボクのヒーローだからね」
「え？わたしなにもしてないよ？」
「いつもすてきな歌、歌ってくれるでしょ」
「そうねぇ。私もAちゃんのお歌を聞いたら元気が出てくるもの」
そうやって永兄さんと二亜母さんが大切な内緒話をするように2人で笑いあっていた。
それが何だかとっても暖かくて。胸の真ん中がぽかぽかとしてきた。
心がどこにあるかなんてよく議題にされているが、確かに。こんなにぽかぽかしていたら胸に心があるなんて思ってしまいそうだ。
「ご飯終わったらまた、お歌聞かせてもらってもいい？もちろん血が出ないくらいね」
「たまにはボクもいっしょに歌いたいなぁ」
「いいわね！なら私も一緒に歌いましょうか！」
「うん、たのしそうだね！ねぇ、A」
2人が優しく私を見つめてくる。
「いいかな？」
「……うん！いいよ！」
まるでほんとの家族みたいだった。
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作者名：秋桜 時雨 | 作成日時：2019年2月6日 16時
