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【side降谷】
車の中に戻ってくると深くため息を吐きながらハンドルに額を押し付けた。
彼女がいなくなった、連れ去られたと理解した時、気が狂いそうになった自分に気がつき動揺したし、必死に抑えた。
《警察官であれ》と何度も心の中で唱えた。
────無事で良かった…。
しかし………物凄く可愛らしい部屋だったな……。
ほとんどの家具が低めのもので統一され、すっきりと整頓されていた。
小さなオープンシェルフに並べられた洋書を見て、ポアロで出会った時の彼女を思い出した。
明るく振る舞っていたが、不安で仕方ないのだろう。
離れ側の彼女は、無意識のようだが眉尻を下げて僕を見上げていた。
本当は側にいてあげたいが、あまり深く関わりすぎるのも問題だ。
それだけ、彼女に危険が及ぶかもしれない。
しかし…
車の窓をコンコンとノックされ、顔を上げると風見が立っていた。
助手席を指差し、車の中へ招き入れる。
「例の男は警視庁にて身柄を拘束中です。…ここは例の女性の自宅近辺ですか?」
「ああ。彼女は自分がストーカー被害にあっているとは、今日まで気が付かなかったようだ」
「そうでしたか…」
風見が何かを言おうとして口を噤んだのを悟り、彼にも話しておかなければならないなと、口を開いた。
「彼女は姫宮A。22歳。米花大学 外国語学部英米文学科に在籍している、ごく普通の一般人だ。ここ1ヶ月ほど、ポアロによく来店するようになって知り合った。…そう思っていたんだが…今日お互いに思い出したんだ。12年ほど前に面識があったことを」
「そんな昔に知り合っていたんですか?」
「驚いたよ…僕だけでなく、諸伏景光のことも覚えていたんだ。保護せざるを得ないし、正体を明かして口止めもした」
「正体を?! 監視対象としますか?」
「いや……あまり活発すぎる様な性格では無いし、問題は無いとは思うが………」
「…降谷さん?」
「……すまないが、時折気にかけてやってくれないか。…僕の大切な人なんだ」
「えっ?は…はい…分かりました」
二、三、仕事の報告を受け取り、風見は軽く会釈をして去っていった。
明らかに動揺していた様で、1度閉めたドアにスーツを挟み込んでいたが。
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作者名:ひより | 作成日時:2023年4月18日 17時