【三人称】今夜はあなたと【短編集】 (ページ1)

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【鉄塔】　梅雨ページ1

鉄塔side

「今日も雨ですねー」

彼女は雨が好きだ。でも低気圧で酷い頭痛が起きるので梅雨なんかは体調不良なことが多い。

『まぁ梅雨だからねぇ』

俺は雨が嫌いだ。

行動が制限されてしまうし、梅雨なんかはもう雨しか降らないから飽きてしまう。毎年早く終わってくれと嘆いている。

「天気予報だと今日は晴れるはずだったからお外出たかったんですけど…」

『そうだったの？』

「はい、ほらこれ…」

こちらに向けられたスマートフォンには、今日一日の天気予報が表示されていた。朝から晴れのマークが付いているが、今外は完全に雨だ。

『ほんとだね、天気予報がハズれたんだな』

「うー、今日こそ鉄塔さんとお出かけできると思ってたのに…」

しゅんとしながらスマホの画面を眺めるAちゃん。そんなに俺と出かけたかったのだろうか。

『また今度出かけようよ』

「んー…今日出かけたかったです…」

『今日じゃなきゃダメな理由があるの？』

「まぁ、ありますけど…大したことないと言えばないです」

なんだろう、俺に関係あるのかな？もしかしてなにかの記念日？参ったな、忘れてるのかも…

「…一年前の今日、初めて鉄塔さんとデートした日だから…また、同じ場所に出かけたいなぁって…」

『えっ』

そうか、思い出した。丁度一年前、付き合ってから初めて俺がAちゃんをデートに誘ったんだ。確か一緒に水族館に行ったり公園に行ったりしたなぁ。

というか、去年も途中から雨が降って俺が持ってきていた折り畳み傘で相合傘をしたような…

「一緒に散歩したかったです…」

『じゃあ、今から行こうか？』

「えっ？でも雨だし鉄塔さん雨嫌いじゃ…」

『雨の中、また一緒に相合傘して水族館行くのも良いデートになると思うんだよね』

「…！！お、覚えてたんですか！！」

『そりゃもちろん、俺から誘ったデートだからね笑』

ぱあああっと顔を明るくするAちゃん。あぁ、可愛いなぁ俺の彼女。なんて柄にもないこと思ってみたり。

「じゃ、じゃあ早く行きましょ！水族館！！それからご飯食べて公園行って…！！」

『はいはい、わかったから準備して？水族館は逃げないよ笑』

準備を済ませてきたAちゃんと家を出て傘を差す。もちろん、傘は一つ。

「鉄塔さん」

『ん？』

「私と付き合ってくれてありがとうございます」

『そういうのは最後に言うんだよ笑』

手を繋いで彼女と思い出の地へ向かった。
梅雨も案外、悪くないかも。