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甘い香りと未来を紡ぐ_3 ページ44

「何を言うんです。恋人からのプレゼントですよ? 喜ばない方が失礼でしょう」
何を選んだか、が重要ではない。Aがアズールのことを考えて、選ぶまでのその時間が大切なのだ。心が踊る気持ちを隠して、微笑むだけの表情を保つ。
「ちょっと待ってくださいね、用意するので」
「はい」
腕の届く範囲から遠ざかる。
ドア前からソファに置かれた紙袋のところまでの短い距離を、彼女は小走りで向かった。早く渡したい気持ちをふくらませたまま、長く待たせてしまっていた証拠だろう。
Aの後を追いかけるようにして、アズールもソファまで近寄る。
「はい! これです!」
Aは、夜に似合わない明るい笑顔で紙袋を渡す。
「ありがとうございます。中を見ても?」
「大丈夫ですよ!」
紙袋の中を覗き取り出すと、綺麗なアジュールブルーのラッピングに黄色のリボンが施されたものだった。
視線をAに送ると、緊張して顔が強ばっていた。
リボンをほどき、ラッピングのテープを慎重に剥がしていく。
「コロンですか」
表れたのは、細長く携帯しやすいタイプのコロンだった。
「これしか思い浮かばなくて……」
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きますね」
箱を開けて本体を取り出す。透明な容器に店のロゴが刻まれているだけのシンプルなデザインだ。蓋を取り外し、試しに腕にワンプッシュしてみる。ふわりと薫る良い匂い。鼻にツンと来ない甘い香りがした。Aは、その様子を不安そうに見ていた。
「……なるほど、良い香りですね。フローラルの……いや、柑橘系か? 上品さと華やかさ、それから爽やかさもあって、ほのかに甘い。とても僕好みです。ありがとうございます」
「良かったです! やっぱりこの匂いアズール先輩に合いますね!」
アズールの反応に安堵したのか、Aに笑顔が戻ってきた。
「このお礼は後日、きっちりさせてくださいね」
「え! ダメですよ、これは私からの日頃の感謝なんですから!! いつも、私が頂いてばかりですし……。なのでお礼はいりません! コロンひとつでは足りないくらいですよ!」
「そういう訳にもいきません。Aさんは僕のそばに居るだけで十分、返せていますから」
へ、と息の抜ける声がした。ぷしゅう、とお湯が沸騰するようにAの顔もほんのり赤く色づいた。つられて、アズールも口にした言葉が恥ずかしいものだと気づき、顔に熱を帯びた気がした。わざとらしい咳払いをして誤魔化す。

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設定タグ:ツイステ , 短編集 , 女監督生   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:ぱるこ | 作成日時:2020年9月21日 23時

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