甘い香りと未来を紡ぐ_2 ページ43
顔が離れて互いに見つめ合うと、彼女は小さな口を開いた、
「アズール先輩、改めてお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。ですが、もう何度も聞いていますよ?」
「何回でも言いますよ、だって今日は生まれた日を祝う日なんですから」
朝2人で登校した時も、パーティでも、Aは何度もアズールにその言葉を伝えた。
あまりの頻度にもういい、とストップをかけようとした。しかし、アズールがありがとうと感謝を口にする度、肩をすくめて嬉しそうに笑う彼女が可愛らしくて、降参した。
「……ありがとうございます。ではAさんの誕生日は耳が痛くなるほど口にして差し上げます」
「うふふ。かかってこい、ですよ!」
どんと胸を張る彼女が可笑しくて、つい手が伸びた。
アズールの胸に引き寄せて、誰の侵入も許さないように、強く抱きしめた。
求めた時間と、欲した体温だ。
Aの匂いがする。これは多分、アズールがプレゼントしたシャンプーの匂いだ。オンボロ寮にあるものでは髪がきしむと悩んでいた彼女に贈ったものだ。お気に入りだと、喜んでいた表情が匂いと共に蘇った。心音がする。戸惑いと緊張の音だ。一定ながらも拍は速くなっていく。まるで何かを急かすように響く心臓の音に、アズールは心地良さすら感じた。秒針の音すら聞こえない、静かな部屋。ただ呼吸と、心音だけが耳に届く。耳に残る賑やかな声が少しずつ溶けていくようだ。このまま眠ってしまいそうな安らぎを感じて、瞼を閉じる。すると、Aはアズールの背中にそっと腕を回した。一周できない彼女の小さな腕が愛おしくて、自身の胸の鼓動が速まったのを感じた。どこまで、自分は彼女に溺れているのだろう__。
「先輩。あの、渡したいものがあるんです」
鼓膜に優しく響くソプラノに、アズールはハッと我に返る。腕を解き、顔を見合わせた。
「わざわざありがとうございます。とても楽しみですね」
「ちょっと、ハードル上げないでくださいよ! ……まぁ、気に入ってもらえるか、分からないんですけど……」
目線を逸らし、弱々しい声。まっすぐ見つめる彼女らしくなくて、強引に視線が合うように彼女のさらりと落ちる髪を優しく掬った。思惑通り、ぱっちりとした瞳がこちらを捉える。
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作者名:ぱるこ | 作成日時:2020年9月21日 23時