検索窓
今日:6 hit、昨日:7 hit、合計:12,410 hit

月は、太陽に触れた_2 ページ29

悩むAが愛しくて可愛らしい。
「今は何も思いつかないですね、へへ」
「……そうか」
悩んだ末、Aが出した答え。彼女は案外、無欲だと思う。これは、ジャミルがAに触れることを強ばる原因の1つだった。自らの利益よりも、他人の迷惑を優先する。ジャミル自身がAを強く求めているせいで、彼女はそうでもないのかもしれない、と。
「……欲しい」
例えば、こう。白い肌に林檎に似た真っ赤な頬に触れたい。それから、ふにふにと柔らかな唇に口付けたい。などと考えていると、ジャミルの手に、やけにリアルな感触が伝わることに気づく。まさか、と我に返った瞬間、Aの唇がぎゅっと結ばれた。
ようやく、現状を理解した。ジャミルはゆっくりとその手を降ろす。
「……すまない」
「い、いえ、大丈夫です!」
どんな状況でも微笑むAの顔を見ると罪悪感が重くのしかかり、歩いてきた方向を向き、視線の奥で佇む古びたドアを見た。気持ちが昂り、口が滑って、無意識に手が伸びていただなんて。
「……あの、」
「なんだ」
生徒達がドアを開け退出していく様子をじっと見ながら、Aの声に耳を傾ける。
「ご褒美、先輩とのデートじゃダメですか……?」
聞き間違いだと思いたくなくて、瞬時に顔の向きを元に戻す。彼女の顔を見下ろすと、触れれば火傷してしまいそうな程、頬が紅潮していた。口元を手で隠しながら恥ずかしがるその姿に、ジャミルは生唾を飲んだ。
「あっ。その。……さすがにダメですよね、……すみません!」
「っ! 待て!」
素早く目の前から逃げ出そうとするAの腕を、ジャミルは引き止めた。彼女は背を向けたまま、こちらを見ない。
「……ダメなんかじゃない。だから、こっちを見てくれ」
ふるふる、とジャミルの顔色を伺うように振り返る。顔だけ向くも、伏し目で視線は交わらない。ふと、髪が揺れて、小さな耳が顕になった。顔も耳も真っ赤に染まっている。恥ずかしながらもジャミルを求めたことを、体が物語っている。今この瞬間、ジャミルのために染まる赤色に、抑えていた独占欲が横入りしようとした。早まるな。無理に自制して、ジャミルは問いかけた。
「都合のいい日を、教えてくれないか」
恋により臆病になったジャミルは今、どこにもいない。

廊下の外では、太陽が灼け始めた。月が、太陽を追いかけ始める時間だ。
晴天に並ぶこともなければ夜空に並ぶこともない。本来埋まることのない距離が、ジャミルとAの間で縮まった気がした。

あいの薔薇_1【リドル】→←月は、太陽に触れた_1【ジャミル】



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 8.9/10 (18 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
16人がお気に入り
設定タグ:ツイステ , 短編集 , 女監督生   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ぱるこ | 作成日時:2020年9月21日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。