距離【２】

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それは、あの日、私が言葉を分からなく聞き返した言葉のことだろうか。

日本に帰ったあと、韓国語を覚えようと思ったのは、その言葉が何かを知りたい、というのも一つの理由。

でも、私には未知の言葉であったその言葉は、一度しか聞いていなかったので、思い出すことはできなくて、結局分からないまま放置していた。




『そういえば、あれ、なんて言ってたんですか？』


「んー？一回しか言わないって言ったやん」


『ん、まあそうなんですけども』


「じゃあ、뽀뽀(ポッポ)する？」




ニィ、と笑って見せた彼は、いつだかのデジャブを繰り返したいみたいで、もうその言葉を知っている私が、同じ手に引っかかる訳が無いだろう。


それでも敢えて、その交換条件を出してくる理由は、私をからかう為か、出来ないと思ってるからか、

上等じゃないか 。




『……したら教えてくれるんですね？』


「うん」


『約束ですよ？』




隣に座る彼に視線を向けると 、それに気づいた彼と視線が交わる。

たった数秒、見つめ合う時間があって、すぐにその距離が縮まり、自身のマスクを外してキスをする。

あの日と違うのは、それを仕掛けたのが私から、ということ。


私の行動に困ればいい 、戸惑えばいい 、
そうして一年間の私のように、私で頭の中がいっぱいになればいいんだ。

そんな貪欲で溢れた思考を読んでか 、戸惑った様子を欠片も感じない彼は、唇が離れてすぐに一言



「下手くそ」



そう言って、自分のマスクを外し、直接私の口へとキスを落とした。



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