雨模様につき、【稲荷崎】

○ 強くない ページ10

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ぼろぼろの上靴を履いて階段を上がる。ときどき無くなる上靴のために、上靴はもう一足用意してあった。

もうそろそろ替え時？…いや、でも科学の教科書の方が悲惨だ。上靴はもう少し我慢しなきゃ。なんて、こんなことを考えているJKなんて うち一人くらいだろう。みんなは今人気の韓国のグループにお熱。うちみたいにこんなにしようもない事で金欠を嘆いていない。


はぁ…と小さくため息をつきながらのんびり廊下を歩いた。ゆっくり歩いているつもりなのに教室はもうすぐそこ。…あぁ、お腹が痛い。

トイレにかばんを持ったまま入る。お弁当も入ってるけどわがままなんて言ってられない。個室に入って用を足すでもなく立ち尽くす。思い立って手鏡を出すと髪を一生懸命 整えた。

少しでも乱れてたら何か言われる。制服も着崩してたら「調子乗ってんの？」と言われて冷ややかな視線を向けられる。これ以上に辛いことなんてない。


かばんの中に入れていたスマホを取り出して時間を確認する。始業のチャイムがなるまであと五分。もうそろそろ行かないと結構まずい。そう思い、トイレの鍵に手をかけると、女子の笑い声が聞こえた。＿＿うちのクラスの子や。



「正直 伊東ちゃんおってくれてありがとうって感じやわ」

「え、なんで!?」

「だって伊東ちゃんおらんかったらアタシらがいじめられとったかもやん。アタシ 伊東ちゃんみたいにメンタル強ないから絶対 不登校なるわぁ」

「あー、それは言えとる。てか何で伊東ちゃんっていじめられるようになったん？結構かわいいやん」

「なんやったっけ…栗原さん怒らしたんとちゃう？」

「うわぁ それは悲惨やわ」



…………………違う。

うちはメンタルとか強くないよ。今でも悪口を言われるのにも慣れないし うちだって不登校になりたい。

栗原を怒らせたのは うちが正しいと思ったことをしたら結果的にそういう形になっただけ。


今もこうやって目頭が熱くなるのは うちがまだまだ弱いっていう証拠。



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できるならやめたい。日課のようになってきた机の掃除も 悪口を聞こえないように必死に知らないフリをするのも。


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